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条件からは……FC東京・米本拓司?
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2015/04/06 11:40
老獪なプレーの印象が強いが、米本拓司は実はロンドン世代のまだ24歳。2010年に1試合を記録しただけのA代表キャップも、これから増えていくことに期待したい。
いかに米本でも、90分間「球際」では守れない。
そんな米本でも、90分間「球際」にいることはできない。スタミナ自慢の彼でも、ずっとボール保持者に近い距離で守っていたら、タイムアップまで体力はもたない。だから、いかにチームにとって必要な場面で、「球際の強さ」を発揮できるかが肝になる。ここで役立つのが、予測能力だ。甲府戦の75分、こんなシーンがあった。
FC東京は、敵陣深くでDFカニーニからくさびのパスを受けたFW前田遼一の落としがミスとなり、カウンターのピンチを招いた。左サイドに開いた甲府のFW伊東純也にパスが出される。するとその瞬間、敵陣にいた米本は自陣ペナルティーエリアに向けて全力ダッシュを開始。伊東がカットインする間に追いつき、カニーニと挟み込んでシュートをブロックした。
誰よりも早く攻守を切り替え、どこが危険なエリアかを予測し、球際勝負に持ち込む。どんなに疲れていても、米本は躊躇なく走る。この場面について本人に聞いたら、涼しい顔でこんな答えが返ってきた。
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「あー、ありましたね。攻守の切り替えと予測に関しては、僕にとってスタンダードですから。もしも代表入りを狙うのならば、このスタンダードに得点やアシストといったプラスアルファを加えないといけないと思っています。ただ僕の場合、代表に入ることを意識すると大きなケガをしてしまうことは、過去の経験からわかっています。だから今は、チームで良い結果を出すことだけを考えています」
予測能力は、速い攻撃に不可欠な能力である。
球際の達人は、謙虚な男である。ただし、彼の予測能力が攻撃面でも武器となることが、この試合で証明された。開始15分、FW石川直宏が突き刺した決勝ゴールへの流れである。
このゴールの10秒前まで、ボールは甲府の選手の足元にあった。MF新井涼平から前線のFWアドリアーノへロングフィードが送られたが、DF太田宏介がヘディングで跳ね返した。このとき、甲府陣内にいた米本は新井がフィードを蹴った瞬間に後方へ走り出し、ヘディングする太田の視野内に入っていた。ボールは太田の頭から米本の足元へ。米本はノータッチでターンし、すぐさま相手最終ラインの背後に走り込んだ石川へのロングパスを選択。胸トラップした石川が左足を振り抜き、ゴールネットが揺れた。
どの位置に走れば太田からのヘディングパスを受けられるか、どういうターンをすれば速攻につなげられるか、どこに石川は走っているか。米本の予測能力が凝縮したアシストだった。
「ナオさん(石川)とは長く一緒にプレーしていますし、試合前にも僕がボールを持ったら『相手の裏に走り出すから』と言われていました。実際、パスを受けて顔を上げたらナオさんが走り出しているのが見えた。だから、迷いなくパスを出せました」
相手が顔を下げた瞬間に距離を詰めて「球際の強さ」を発揮し、自分が顔を上げた瞬間に「縦に速い攻撃」を繰り出せる。
ハリルホジッチさん、やっぱり米本って「興味深い選手」ですよね?