JリーグPRESSBACK NUMBER
ハリルの「直接見たい選手」を探す。
条件からは……FC東京・米本拓司?
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2015/04/06 11:40
老獪なプレーの印象が強いが、米本拓司は実はロンドン世代のまだ24歳。2010年に1試合を記録しただけのA代表キャップも、これから増えていくことに期待したい。
リスクを負って守備の「距離」を詰める米本。
「球際の強さ」とは、「フィジカルの強さ」とイコールではない。体が大きくて、筋力が強い選手でも、何も考えずに体をぶつけに行けば、簡単にかわされて背後のスペースを突かれ、ピンチに陥る。かといって、相手との距離を取りすぎれば「球際の勝負」にすら持ち込むことができず、技術のある相手には目の前で簡単にパスを回される。
アギーレジャパン時代のブラジル戦(2014年10月14日。0-4で敗北)が典型例で、日本は中盤と最終ラインが守備ブロックを組んでいたのに、ブロック内に侵入する相手に対して全く体を寄せられず、自在にパスを回されては失点を重ねた。
では、決して体が大きくない日本人選手が「球際」で勝つために必要なものとは、何か。甲府戦での米本の動きをつぶさに観察していたら、そのヒントが見えてきた。
ADVERTISEMENT
「日本人選手は守備の時に距離を取りたがるけど、ヨーロッパでは距離が近い。それがヨーロッパのトップレベルでは当たり前だから。その意味では、ヨネ(米本)は近い距離での守備ができるし、そこからかわされることも少なくなった。それがヨネの武器であることは間違いないよね」
これは、今季からFC東京に加わり、練習から米本の動きを見続けている安間貴義コーチの言葉だ。確かに、米本の守備は「近い」。自分がマークすべき選手がボールを持った時、彼はいつも相手の近くにいる。そしてボールと相手選手の間に体をねじ込み、ボールを狩り取る。実際、米本は甲府戦の90分間で計6回、中盤の高い位置でボールを奪い取った。
この守り方の場合、相手に体を入れ替えられれば一気にピンチに陥るが、この試合でマーカーに突破を許したのは、34分にMF稲垣祥に股抜きでかわされた1回だけ。
なぜ彼は、「近い距離」で守ることができるのか。
遠くにいたはずの米本が、気づけば目の前に。
試合後、本人がコツを明かしてくれた。
「相手と近い距離で守ることは、意識しています。僕は決して足が速いわけじゃないから、距離を取ってしまうと自由にプレーされてしまう。だから、相手が顔を下げたところを狙っているんです。相手の顔が下がった瞬間に一気に距離を詰める」
サッカー選手はボールをトラップする時、必ず顔が下がる。ノールックでパスやシュートはできても、「ノールックトラップ」は、ほぼできない。動いているボールを止めるには、目でボールの軌道を確認し、その先に足を出さなくてはならないからだ。米本は、そのわずかな時間に距離を詰める。
気がつけば、米本?!
相手にとっては、パスをもらう前には遠くにいたはずの米本が、トラップをして顔を上げたらすぐ目の前にいるのだから、慌ててボールタッチが乱れるのも仕方ない。