マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
千両役者・黒田と「たまごっち」女子。
様変わりしたプロ野球キャンプ風景。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byShiro Miyake
posted2015/03/03 11:25
「キャンプシーズンが一番楽しい」という声もあるほど、プロ野球にとって春のシーズンは大切なもの。そして、その楽しみ方も人それぞれなのだ。
若い女性たちの実に真摯な見学ぶりに感心させられた。
沖縄は自然もいいが、街がいい。
今の本州にはどこを探してもなくなってしまった日本の街並みが、どこの街に行ってもあたりまえのように、そのまま残っている。
昭和30年代、40年代の本州の街々がそのままの姿で残っていて、私はいつもタイムマシンに乗って40年、50年前に戻されてしまったような錯覚を覚えながら、那覇を歩き、名護を歩き、浦添や宜野湾の街を歩く。
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フルムーン・カップルが球場のそこここで目立つそのかたわらで、若い女性の二人連れもずいぶん増えた。
若い女性といっても、お目当ての選手たちを追いかけて、大騒ぎするような手合いと思ったら、彼女たちに失礼である。これが、実に真摯(しんし)な見学ぶりでやはり感心させられてしまう。
ある意味、「たまごっち」。
たとえば、ソフトバンクの宮崎キャンプ。
広大な運動公園の中、グラウンドが5つも6つもある。
メイン球場で一軍の紅白戦が行われていると、隣りのサブ球場ではファームの紅白戦が同時進行している。
ところが、ある2人組みの若い女性たちは、そこからサッカー場を挟んで、さらに向こうにある400mトラックでひたすら走る若い投手をじっと立ち尽くして見つめている。
すぐ横にベンチもあるのに、立ったまま、砂ぼこりの混ざった風にさらされたまま、ずっと見守っている。
視線の先でトラックを走るのは、まだ名もない若い投手である。
きっと、アマチュア時代から追い続ける「私たちだけの○○くん」なのであろう。じっと見つめることで、見守ることで、彼女たちも“育成”に参加しているのかもしれない。
例えは古いが、ある意味「たまごっち」。ペナントレースのスタンドで飛んだり跳ねたりしている人たちもけっこうだが、物言わぬこういう人たちこそ、本当のファンなのかもしれない。
間のサッカー場。コーチが手で転がしたボールを、育成で入った内野手が繰り返し、繰り返し捕球している。お尻の穴が地面にくっつかんばかりに低く腰を割って、何球も何球もグラブの先を地面につけて捕球する。
そこにも、別の見つめる目があった。
思い出した場面がある。もう5年も前になろうか。
同じ宮崎、同じ運動公園、同じサッカー場だった。
やはり同じように、「低~く、低~く」、コーチの“呪文”に合わせて、転がってくるボールを1球1球、ていねいに、ていねいに、右手でグラブにフタをするように捕球していた小柄なユニフォーム姿。
サブ球場のファームの試合をいいかげん見た後で、もう一度通りかかったサッカー場で、まだ「低~く、低~く」やっていたのが、高校から入ったばかりの今宮健太遊撃手の初めてのプロ野球キャンプであった。