マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
千両役者・黒田と「たまごっち」女子。
様変わりしたプロ野球キャンプ風景。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byShiro Miyake
posted2015/03/03 11:25
「キャンプシーズンが一番楽しい」という声もあるほど、プロ野球にとって春のシーズンは大切なもの。そして、その楽しみ方も人それぞれなのだ。
500人に囲まれて、周囲に一度も目をやらなかった。
投げ始める。
投球を横から見る位置に立つ。
同じだ……やっぱり同じだ。
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右足一本で立った時の、頭の位置がいつも同じ。踏み込んだ左足が着地する位置がいつも同じ。ボールを放すポイントが、いつも帽子のひさしの前。これもいつも同じ。30球までは数えたが、おそらく40までは投げていないだろう。
ぐるりと取り囲んだ人垣は、終った時にはきっと500人ぐらいにはなっていたはずだ。
なのに、周囲に目をやることは一度もなかった。黒田博樹は、自分の足元と投げるミットしか見なかった。
自分の“投”の世界を構築しながら、その中で構えたミットより高く入ったボールは1球もなく、千両役者の初舞台は夢のように終って、人々のためいきだけがあとに残った。
キャンプには、見るための「穴場」がある。
春のキャンプめぐりは心が躍る。
およそ3カ月ぶりの野球の現場。晴れた日のキャンプ地の日なたは、もう半袖でたくさんだ。
しかも、選手たちと同じ空間を共有できて、こんな近い場所から見ていいのかな……という距離からプレーを目の当たりにすることもできる。
選手になにかあったらたいへんだから、もちろん「立ち入り禁止」みたいな無粋なエリアも設けてあるが、よくよく探してみると、こんな場所が……と思うような空間があったりして、ここはどう考えたって、球団がファンのためにわざわざお目こぼしの空間にしてくれているんだとしか考えられないような「穴場」もあるものだ。
最近のファンは、そういうことをよく知っている。
仕事で来ているこっちのほうが、へえ~って感心してしまうようなところから、練習をのぞいている。