マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER

千両役者・黒田と「たまごっち」女子。
様変わりしたプロ野球キャンプ風景。

posted2015/03/03 11:25

 
千両役者・黒田と「たまごっち」女子。様変わりしたプロ野球キャンプ風景。<Number Web> photograph by Shiro Miyake

「キャンプシーズンが一番楽しい」という声もあるほど、プロ野球にとって春のシーズンは大切なもの。そして、その楽しみ方も人それぞれなのだ。

text by

安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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photograph by

Shiro Miyake

 千両役者。

 そんな表現を使いたくなるような存在がほんとうにいなくなったと思う。とりわけ、プロ野球の世界。

 たとえば、長嶋茂雄選手。

 もちろん、いうまでもなく「ミスター・ジャイアンツ」。人から「ミスター」と呼ばれ、なんの照れもなくあたりまえのように受けて返して、話しているうちに結論がわからなくなってしまうような“語り口”でも、聞いている誰もがそれを許してしまう。

 というよりも、そういう迷走コメントを待ち望んでいるようなフシすらあって、逸脱がこの人の色気になっている。そういう人が「千両役者」なのだろう。

 私は、実は、この千両役者が嫌いだった。

 叱られることを承知でいえば、子供心にも「うまい」とも「すごい」とも思っていなかった。

 なのに、みんなが見とれて、認めて、神のようにあがめ立てて。

 キザな感じも好きになれなかった。子供の目にも、ちっともスマートに見えなかった。田舎の人が気どって、スカして、かっこつけてやってるだけじゃないか、って。

 そんなふうに感じたままを、いつも学校で言い切っていたから、巨人のGマークの帽子しか売っていなかった時代の小学生としては、まあまあ野球も上手かったわりに、クラスでは浮いた存在だった。

ひさしぶりに現れた「千両役者」、黒田博樹。

 話が少々逸れてしまった。

 そんな「千両役者」がひさしぶりに現れた。

 広島東洋カープの沖縄キャンプ。今季から古巣に戻ってきた黒田博樹が、初めてブルペンにやって来た日。マウンドに上がった瞬間、黒田投手ひとりが場の空気を一瞬にしてさらっていった。でかいだけなら、九里亜蓮あたりのほうが大きいはずなのに、見える姿の「像」の大きさが違う。

 しーんとなった。

 カメラがざっと100台。ファンがその2倍はいただろう。なのに、シャッターの音が聞こえる。

 人垣のうしろで、その九里が黒田投手の姿を見つめる。

 そこにいたら後ろのオレが見えへんやろ……と、前田健太が九里の巨体を押しのけ、視界を確保する。

 受ける捕手は会沢翼。マスクで顔が見えない。

 こんな時、受ける本人はどんな心持ちなんだろうか。表情が見たい。

 私なら、きっとまばたきしない。

 まばたきしたら、もったいない。目が乾こうがなんだろうが、そんなことは問題じゃない。そのフォーム、そのボール、その動き。すべてをこの目と記憶の中に焼きつけてやる。

【次ページ】 500人に囲まれて、周囲に一度も目をやらなかった。

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