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ソフトバンク連覇への“工藤イズム”。
対話力、盤石の組閣、そして厳しさ。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byKyodo News
posted2015/01/20 10:50
監督就任会見での工藤公康は、満面の笑みだった。誰よりも自分に厳しかった工藤の監督就任は、昨年日本一に輝いた選手たちにとっても大きな刺激となることだろう。
「選手は新しい監督に何を求めるか分かる?」
評論家時代、工藤に「監督に求められるものは何か?」と尋ねたところ、逆に「じゃあ、選手は新しい監督に何を求めるか分かる?」と質問された。
現役時代の実績、求心力、知性……。それらを並べても、「必要かもしれないけどそれが全てじゃない。深く考えないでいいよ。でも、簡単なようで監督にとっては難しいことかな」とヒントを交えながら首を横に振る。
自分を試合に出してくれるかどうか?
幾度かやり取りを重ねた後にそう答えると、工藤はパッと目を見開き、饒舌に語りだした。
「そこだよ。選手は『俺を使ってくれるなら頑張りますよ』ってまずは思うんだ。でも、実際にスタートは横一線じゃないんだよ。前の年にレギュラーだった、3割を打った、通算で1500本打っている。そういう実績が優先されることは間違いない。
でもそうじゃない選手。一軍と二軍を行ったり来たりしている選手や若手だって、『監督は何を考えていて、自分たちに何を求めているんだろう?』と絶対に思っている。だから、監督は選手たちとのコミュニケーションを怠っちゃいけないんだよ。それができた上で、監督は『自分はこういう選手を試合に出す』という意思を選手に分かってもらわなくちゃいけない」
監督と選手の円滑なコミュニケーション。ただし、それが実現できれば一事が万事うまくいくというわけではない。強固な組織を作る上で、ひとつの要素だけにこだわるほど、工藤は安直な指導者ではないのだ。
監督が、目指す野球をコーチに伝える重要性。
そのために必要なものとは何か? 工藤はそれを組閣だと、はっきりと口にした。
「監督というのは、理想としている攻撃パターンや守備、投手起用もそうだけど、自分がやりたい野球、あとは自分の想いとかね。そういう、目指しているものをコーチにしっかり伝えていくことが大事なんだ。それをコーチたちが選手に伝えていく。時には監督が直接、選手個人と話さなければならなかったり、自分からミーティングを開く必要も出てくるんだろうけど、監督というのは本来、間接的に選手に伝える側の人間でなければならない。
要するに、自分の意思をどれだけコーチやトレーナー、フィジカルコーチなどに明確に伝えられるか、指示系統をちゃんと作れるかなの。監督がよくても、その下の人間がしっかりしていなければチームは絶対に強くならない」