セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
交錯するイタリアとアジアのサッカー。
デル・ピエーロは何を伝えたのか。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byGetty Images
posted2014/11/12 10:30
ディアマンティ(右)に加え今夏よりジラルディーノが加入。年俸は約7億円と破格の待遇だ。
セリエAのアジア系選手は、本田、長友を含め3人。
古今東西を問わず、先駆者や少数派には偏見や困難が付き物だ。
セリエA全体を見渡してみても、アジア系といえる選手は、本田圭佑と長友佑都を除くと、インドネシア系の血を引くベルギー代表MFラジャ・ナインゴラン(ローマ)が唯一人いるに過ぎない。
トヒルにしても、セリエA初のアジア出身オーナーに対する潜在的な風当たりはなお強い。決して大げさではなく、彼らはサッカー以上のものをかけて戦っているのだ。
しかし、サッカーに対するアジアの投資熱は、当分冷めそうもない。
中国有数の巨大デベロッパーである「恒大産地集団」を親会社に持つ広州恒大は、同国の電子商取引最大手「アリババ」のジャック・マー会長を共同オーナーに迎えた。資金力は、選手や指導者に野心を持たせる。
11月5日、広州恒大は、優勝決定後に勇退を表明していたリッピのテクニカルディレクター就任と、アル・アハリ(UAE)で副監督をしていたファビオ・カンナバーロのヘッドコーチ就任を同時発表した。
名将子飼いの副監督からチームドクターまで、総勢6人のイタリア人スタッフをそのまま引き継ぐカンナバーロは、事実上の後任監督として抱負を語った。
「腰かけ気分で広州恒大のサッカーができると思う者は、出て行ってもらう。一刻も早く現場の指導を通して、自分の経験を伝えたい。クラブは来季のACLでも上位を狙えるレベルにある」
8年前、ベルリンで世界の頂点に立った監督と主将は、広州でクラブの黄金時代建設を目指す。
極東から始まった投資熱は、アジア中に広まった。
数千キロも離れたユーラシア大陸の東の果てから、ディアマンティは母国を思う。
「イタリアでは、選手をちやほやしすぎる。ここ(中国)じゃ練習場所を転々としたこともあったし、施設にシャワーがなくてホテルに帰って浴びたこともあった。もし、今もイタリアに残ったままだったら、俺だってすぐに不満をこぼす一人だったかもしれない。だが、ここじゃ少々のことは笑い飛ばして、やる気に変えるしかないのさ」
20年以上前に極東から始まった欧州サッカーへの投資熱は、一旦中東へ飛び、中国からインド、東南アジアにまで拡大した。
距離と時差を限りなく縮めるインターネットの時代。互いに成り上がり、一花咲かせようと目論むイタリアとアジアは、融和と衝突を繰り返しながら、接近していく。