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不条理か、「神の見えざる手」か。
MLBポストシーズンでの“ある判定”。 

text by

阿部珠樹

阿部珠樹Tamaki Abe

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photograph byGetty Images

posted2014/10/16 10:30

不条理か、「神の見えざる手」か。MLBポストシーズンでの“ある判定”。<Number Web> photograph by Getty Images

7回の危機を乗り切り、ガッツポーズを見せるマディソン・バムガーナー。ポストシーズン敵地連続無失点のメジャー記録を打ち立てた。

もしボークが宣告されていたら……。

 もしここでボークが宣告されていたらどうだったか。三塁走者が生還して2点差になったうえに、なお走者三塁で代打というピンチがつづく。ホームとしては最高の盛り上がりになる場面である。

 特に、ポストシーズンに入ってからの7回というのは、カーディナルスにとって特別な意味を持っていた。地区シリーズでドジャースと対戦し、第1戦で、6回までほぼ封じられていたドジャースの大エース、クレイトン・カーショーを一気に攻略し、8得点のビッグイニングを作っていたのだ。7回に得点するというのは、ポストシーズンのカーディナルスにとって勝利を約束する吉兆だといってもよい。

 それが不可解な判定によって阻まれた。もちろん、審判にもいい分はあるだろう。バムガーナーが投球動作を止めたのは、プレートを完全に外した後だったというのが主審の判断だったかもしれない。見落としかとも疑ったが、映像を見る限り、審判が目を切った様子はなかった。

「あれは映像で見ると、ボークだったかもしれない」

 カーディナルスの抗議がさほどではなかったことで、カーディナルスもボークでないと分かっていたという見方もできる。

 しかし、あのプレーのひとつ前、一塁ベース手前での投手のタッチプレーに関して、カーディナルスベンチはすでにチャレンジを行い、却下されていた。もしそのチャレンジがなければ、ボークの疑惑に対して、おそらくもっと強硬に抗議したのではなかったろうか。

 バムガーナー本人は、翌日の試合の中継中、テレビからのインタビューを受け、「あれは映像で見ると、ボークだったかもしれない」とシラッと答えていた。さすがに、ニヤニヤして挑発するようなそぶりはなかったが、判定が覆るはずもないから、余裕の「自白」といえる。

 結局カーディナルスはボークをきっかけに点を取ることができず、ラッキー7の効力を発揮することができないまま第1戦を落とした。この原稿を書いている時点では、まだシリーズの勝敗は決まっていないが、もしカーディナルスが敗退したら、あの1球は後々まで語り草になるのではないか。

【次ページ】 緊迫した試合で現れる「神の見えざる手」。

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