プロ野球亭日乗BACK NUMBER
巨人に3連敗を喫した阪神の“悔い”。
両監督の、1点にかける采配の差。
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/09/12 16:30
鈴木尚広の代走起用が実り、巨人は勝ち越しの1点を手に入れた。3連戦を終えて巨人のマジックは16、もう一波乱起こすことはできるのか。
今季初めて、リードされた状態で呉昇桓を投入。
1点のリードを許した阪神の和田監督も、勝負手自体は打っている。
9回、マウンドの安藤優也が先頭のロペスに二塁打(代走・片岡治大)を浴び、井端の送りバントで1死三塁のピンチを招いた。
ここで和田監督が動いた。抑えの切り札、呉昇桓投入である。リードされている場面での呉投入は初めてのことで、9回裏の最後の攻撃にすべてをかけるという指揮官の執念の起用だった。
もちろん9回の反撃のためにも、ここは犠飛も含めて絶対に1点を与えてはならない場面。そのための最善手を、1つのアウトごとに尽くして行くのがベンチワークであるはずだ。逆に言えば巨人ベンチも、あと1点のダメ押しのために同じように手を尽くす。その駆け引きが勝負の帰趨を決めると言ってもいい場面だった。
阪神が放棄した、矢野敬遠という選択肢の判断。
まずは巨人ベンチが動いた。
投手の山口鉄也に代打・矢野謙次を送った。ベンチに残っていた野手は、矢野の他には寺内崇幸に大田泰示、小林誠司、加藤健の4人。残っている中で1番の駒を使ったと言えるだろう。
本来ならば阪神ベンチにはここでもう1つ、判断すべきことがあったはずなのだ。それは矢野と勝負をするのか、それとも次の鈴木と勝負するのかということだ。代打の切り札として入っている矢野と、代走に出てそのまま守備に就いた鈴木、どちらと勝負した方が失点を防げる確率が高いのか。その判断をベンチが下す場面だったわけである。
しかし阪神ベンチは、切り札の呉をマウンドに送ったことで、この判断を放棄したように見えた。あとは呉の投球に任せて、ベンチは見守るだけだったのである。そうして矢野と勝負にいって、中犠飛でダメ押しの1点を奪われた。
結果的にこの1点は、勝負とは関係がない点だった。しかも鈴木と勝負をしても、同じ結果だったかもしれないし、鈴木を打ち取っても次の橋本に安打を打たれたかもしれない。