長野を下げ、迷わず鈴木尚広を代走に送った原監督。

　ここで注目すべきは終盤の巨人・原監督と阪神・和田監督の采配だった。

「予想もしていなかった」と原監督が目を丸くした井端の一発で追いついた原監督は、8回に勝負手を打つ。先頭の長野久義が左前安打を放つと、迷うことなく代走のスペシャリスト・鈴木尚広を送ったのである。

　断っておくが、決して長野は足が遅いわけではなく、むしろ速い部類に入る選手である。しかもここにきて1番に定着して、バットも復活。同点のまま、もし延長戦にもつれ込むことを考えたら、おいそれとは交代させられない選手だったはずだ。

　しかし、その選手をあっさりと交代させた。

鈴木の日本屈指の走塁術がもぎとった1点。

「一つの決断だったと思う」

　原監督は振り返る。

「尚広の足というのは、我々にとっては最終兵器。彼を投入するということは、必ず1点は奪わなければならないということなんです。あの場面は打順も上位につながっていく場面だし、（3番を打つ坂本）勇人の状態が非常に良くなっているということもあった。逆に言えば尚広を使わずに、惜しいところで得点を奪えなかったときこそ、最悪なわけです。だから迷いはなかった」

　足の速さもさることながら、鈴木は走塁術やスライディングの技術、打球判断が日本屈指と言われる選手である。1点を挙げるのを待つのではなく、奪い取るために、迷うことなく最善手を打ったということなのだ。

　結果的にこの策が当たって、巨人は決勝点を奪った。2番・橋本が送りバントを決めた1死二塁から、坂本勇人が放った遊撃強襲の内野安打で、鈴木が一気にホームを陥れた。自分の前への打球ながら、素晴らしい打球判断でスタートを切り、躊躇なく本塁へと突入した鈴木の走塁術がなければ入らなかった1点。まさに、勝負をかけたベンチワークが巨人にもたらした決勝点だったわけである。

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