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ロマゴンは「尚弥なら倒せる」!?
八重樫東が語った、王者の強さと隙。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2014/09/08 11:00
最強と名高いゴンサレスの挑戦を受けてたった31歳の八重樫東だったが、世界最強を踏襲することは叶わなかった。しかしゴンサレスに「これまで戦った中で一番強かった」と言わしめた。
筋肉で拳を振るのではなく、体重を乗せる。
6年前の2008年9月、ゴンサレスが初めて世界タイトルを獲得したとき、王者としてゴンサレスを迎え撃ったのが新井田豊だ。それまでWBA世界ミニマム級タイトルを7度防衛していた新井田氏は、ゴンサレスに4回TKOで敗れて現役を退いた。現在は横浜市内でスポーツジムを経営する元王者の解説をもとに、ゴンサレスの“緻密で繊細な”ボクシングを考えてみたい。
まずはゴンサレスのパンチの質についてだ。
「ロマゴンはあまり半身にならず、右肩を少し前に出して相手と正対するような構えをしています。この構えからとてもコンパクトでウエートの乗ったパンチを打つことができる。
自分流に言わせてもらえば、筋肉を使って拳を振るのではなく、1発1発に体重を乗せてえぐるようにガチン、ガチンと打つ。このような打ち方だとスタミナをロスしないし、バランスが崩れないから連打が効く。八重樫選手は決してパンチの弱い選手ではありませんが、そこはあらためて違うなと感じました」
5発目を決めるための、二重三重のおぜん立て。
このような打ち方ができるのは、バランスの良さが抜群だからであろう。ゴンサレスは右ストレートを外されて体が流れたように見えながら、流れるように左アッパーが打てる体勢に入っていたりする。こうした土台の上に緻密なコンビネーションは生み出されるのだ。新井田氏が続けた。
「試合ではやっぱりパンチの的確性が違いました。ロマゴンのパンチは、ディフェンスでガードしていても、どっかしらで崩してくるんです。休む場所がないんですよ。普通なら、頭をここに置いておけばとか、ガードをここに置いてけばとか、安全を確保できる場所があるんです。でもロマゴンにそれは通用しない。決してスピードがあるわけじゃないけど、強い連打が打てるから二重三重のおぜん立てをして、ディフェンスの小さな穴を絶妙に突いてくるんです」
たとえばゴンサレスが右を打つ。八重樫がヘッドスリップでそれを交わすと、ゴンサレスが左アッパーを打ち込んでくる。これもブロッキングで防ぐと、今度は右アッパーが飛んでくる。さらにジャブ、右ストレート……。防いでも、防いでも次々とパンチが打ち込まれてくるのだ。
しかもそれが、3発目の右アッパー、あるいは5発目の右ストレートを決めるために、最初の右ストレートを打っているというのが、新井田氏の指摘する「二重三重のおぜん立て」なのである。