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ロマゴンは「尚弥なら倒せる」!?
八重樫東が語った、王者の強さと隙。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2014/09/08 11:00
最強と名高いゴンサレスの挑戦を受けてたった31歳の八重樫東だったが、世界最強を踏襲することは叶わなかった。しかしゴンサレスに「これまで戦った中で一番強かった」と言わしめた。
ラウンドを追うごとに減っていった打つ手。
さらにゴンサレスの学習能力の高さにも驚嘆したという。まるでラウンドごとに対戦相手のデータを蓄積し、それをコンピューターで解析して最も適切な解答を得ているかのように動くのだ。前のラウンドに通用した動きが、次のラウンドで通用しない。確かに八重樫も回を追うごとに打つ手が減り、追い込まれていった。
こう説明されると、1ラウンドを終えた時点で八重樫が「打ち合うしかない」と感じたのも納得できるような気がする。八重樫は決して最初から打撃戦を挑むと決めていたわけではなかった。初回の足を使った動きも悪くなかった。それでもなお打ち合いに出たのは、技術で勝負して大差判定負けに終わるくらいなら一発にかけて打撃戦をすべきだと、八重樫が直感的に判断したと言えるのではないだろうか。
八重樫が口にした「尚弥なら勝てる」。
はたしてゴンサレスは本当に無敵なのだろうか。試合翌日、八重樫はなかなか大胆なことをさらっと口にしている。
「尚弥のボクシングなら勝てるんじゃないですか。基本的なスピードが違うし、尚弥はディフェンスもいい。もしかしたら尚弥の空間で勝負できるかもしれないなと。これはいちファンとして見てみたいですね」
第3ラウンド、八重樫がダウンを奪われる直前の動きは、難攻不落のロマゴンを攻略するひとつのヒントだったのかもしれない。左右によく動き、素早い出入りで2発、3発とショートの連打をまとめたときは、さすがのゴンサレスが少し戸惑っているように見えたものだ。確かにスピードでかく乱し続けられる選手なら、と思わないでもない。
井上尚弥だけでなく、井岡一翔(井岡)が対戦しても面白いし、国内には将来を期待される若いフライ級選手がたくさんいる。今後だれが怪物ゴンサレスをストップしてくれるのか。八重樫の奮闘がボクシング界に新たな夢を与えてくれた。やはり強豪とは対戦するものである。