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ロマゴンは「尚弥なら倒せる」!?
八重樫東が語った、王者の強さと隙。
posted2014/09/08 11:00
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
AFLO
5日に行なわれた八重樫東(大橋)とローマン・ゴンサレス(ニカラグア)の一戦が大きな反響を呼んでいる。結果は、挑戦者のゴンサレスが王者の八重樫を9回2分24秒TKOで下し、WBC世界フライ級タイトルを獲得。3階級制覇を達成したというものだが、39戦39勝33KO無敗、アマチュア時代も含めると126戦して1度も負けたことがないという本物の強者を相手に、八重樫が一歩も引かず、打たれても、打たれても前に出てファイトし続けた姿がファンの心を打ったのだ。
そしていつの試合でも、類まれなハートの強さで相手に向かっていく八重樫の勇敢さに驚くと同時に、ゴンサレスの強さにあらためて深いため息をついた観戦者も多かったのではないだろうか。これぞ世界トップの実力者、ゴンサレスの強さとはいったい何なのか─―。
試合直後、興奮さめやらぬ代々木第二体育館のリングで、八重樫はインタビュアーにマイクを向けられ次のように語った。
「やっぱりロマゴンは強かったです。打たれたら打ち返すという根本的な部分でしか勝負できなかった」
八重樫の謙虚な人柄を考えれば、少し差し引いて聞いたほうがいいのかもしれない。負けた以上、たとえそれが称賛されるような試合内容であったとしても、偉そうなことは決して口にできないのだと。しかし実際にリング上でゴンサレスと対峙し、拳を交えた八重樫が力量の差を感じたことは確かだったと思う。
ゴンサレスは、「野性」ではなく「繊細」。
試合翌日、八重樫は負けたというのに律義にジムに現れ、初防衛に成功した弟分の井上尚弥と記者会見に臨んだ。会見がお開きになりかけたころ、もう一度ゴンサレスの印象を聞いてみた。
「化け物じみた強さじゃない。野性味があるという感じではないんです。ボクシングが緻密なんですよ。緻密な計算の上に作られたボクシング。繊細という感じがすごくしました」
褐色の肌からハードパンチを次々と繰り出し、KOの山を築きあげてきたゴンサレス。39勝33KO無敗という数字の迫力から、ワイルドな“倒し屋”というイメージを抱きがちだが、ゴンサレスの強さを語るとき、八重樫は「野性」ではなく「繊細」という言葉を選んで表現した。