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リスクを敢えて犯したハミルトン。
ドイツGP予選トラブルの背景とは。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2014/07/27 10:30
ドイツGP予選Q1でブレーキの故障によりタイヤバリアに衝突したハミルトン。衝撃は30Gにも及んだという。
ブレンボ社供給のシステムで事故が多発。
事故の前に記録していたタイムでQ1は通過したものの、マシンは大破していたため、ハミルトンの予選はここで終了。Q2に参加することなく、予選16位に終わった。
このアクシデントが単なる不運では片付けられないのは、今シーズン(ウインターテストとインシーズンテストを含む)、同様のトラブルが10件報告されているからだ。内訳は、トロロッソがもっとも多い3回で、次いでメルセデスAMG、ザウバー、マルシアがそれぞれ2回ずつ。そしてケータハムの1回だ。奇妙な偶然はまだ続く、これら10件のブレーキトラブルはすべて、ハミルトンが使用していたブレンボ社が供給するブレーキディスクだということ。しかも、すべてフロントブレーキのディスクなのである。
あるグランプリ関係者は、その理由を次のように分析する。
「じつはブレンボ社のブレーキディスクは、昨年までアメリカのハネウェル社製の素材を使用していたのだが、ハネウェル社はF1の市場が小さく採算が合わないことから、昨年限りで素材の供給をストップしていた。そこでブレンボ社は素材の入手先を今年から変えたのだが、それがどうも原因らしい。ただし、なぜフロントだけがトラブルを起こすのかはわからない……」
フェラーリだけがトラブルに見舞われていない理由。
もうひとつの疑問は、ブレンボ社のブレーキシステムを長年使用しているフェラーリが、今年一度もトラブルに見舞われていない点だ。先のグランプリ関係者はその理由をこう明かす。
「ハネウェル社製の素材の供給がストップされるとわかった時点で、フェラーリはブレンボ社に大量のストックをお願いしていたらしい」
つまり、メルセデスAMGもハミルトンも、今年ブレンボ社が供給するブレーキディスクが昨年までと異なり、しかもそれはトラブルを起こす可能性が高いことを認識していながら、敢えてそれを選択したこととなる。