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オールスター、“主役”は不在の田中?
投手の故障というMLBの「社会問題」。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2014/07/17 10:40
アメリカン・リーグのユニフォームをまとい、オールスターで揃って好投を見せた上原浩治とダルビッシュ有。メジャーで何年も投げ続けている、という彼らの実績はそれだけでも偉大なものなのだ。
真剣勝負か楽しむ場所か、という論争への1つの答え。
少しでも付加価値をつけようと、様々な意見が戦わされた結果が、2003年から採用されている「勝ったリーグに、ワールドシリーズでのホームフィールド・アドバンテージを与える」という案だった。
ここ5年ほど、ホームフィールド・アドバンテージを受けたリーグの球団がワールドシリーズを制しているので、たしかに一定の意味を持ってきたのはたしかだ。
しかし選手たちは今も昔も「オールスターの場を楽しむ」という気持ちが強く、真剣勝負の要素を持ち込むのは野暮だという空気もある。
その板ばさみの中で、指揮を任された監督には大きなプレッシャーがかかるようになってきていたのだが、今年両軍の監督が見せた采配は面白かった。
これまでオールスターの先発投手は、2回を投げるのが普通だった。昨季はナショナル・リーグの先発、ハービー(メッツ)が2回、アメリカン・リーグの2番手、セール(ホワイトソックス)がともに2回を投げている。
ところが、今年はすべての投手が1回以下。ヘルナンデス(マリナーズ)、ウェインライト(カーディナルス)の両先発が初回だけでマウンドを降りると、ダルビッシュ(レンジャーズ)も3回の1イニングだけ。
上原浩治(レッドソックス)にいたっては、ワンポイントリリーフ(見事に三振!)という贅沢な継投ぶりだ。
若手投手の故障という「野球の社会問題」。
今季メジャーリーグでは、田中将大(ヤンキース)をはじめとした若手投手が肘の故障で相次いで戦線を離脱し、「酷使」「登板間隔」「投球数」というテーマでいろいろな議論が交わされている。近い将来、投手の起用法について大胆な改革案が提出されるかもしれない(メジャーリーグはこうした動きが早い)。
背景に、若手投手の故障という「野球の社会問題」を抱えている以上、各球団の財産である投手を大事に扱うのはオールスター監督の義務である。なおかつ、チームを勝ちに導くという「難題」を両リーグの監督は課せられているから、この仕事は難しいのだ。
なにせ、延長戦に入って投手を引っ張ろうものなら、ライバルチームのファンから、「酷使だ!」と非難される、嫌な世の中である。
ジーター、そしてMVPを獲得したトラウト(エンジェルス)が輝いたオールスターだったが、頻繁な投手交代には、今季メジャーリーグが抱える深刻な問題が垣間見えた。
ひょっとしたら、田中の不在が今年のオールスターの象徴だったかもしれない。