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サッカーはどこまで科学できるのか。
データと直感、その“複雑”な関係。 

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田邊雅之

田邊雅之Masayuki Tanabe

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posted2014/07/04 16:30

サッカーはどこまで科学できるのか。データと直感、その“複雑”な関係。<Number Web> photograph by Getty Images

ブラジルvs.チリ戦に続き、激しい戦いとなったオランダvs.メキシコ戦。しかし、人間が試合を観た時の直感とデータは時に食い違うのだ。

「パス成功率より、ターン・オーバー回避能力」

 このジャンルを扱った意欲作として、昨年5月に発行された「The Numbers Game (ザ・ナンバーズ・ゲーム)」が挙げられる。同書はコーネル大学とダートマス・カレッジの教授が共著したもので、コンフェデ杯の際、知人のガブリエル・マルコッティ(イタリア人ジャーナリスト)が日本語に翻訳してはどうかと、さかんに勧めてきたものだった。

 今にして思えば、素直に誘いに乗っていれば良かったと思うが、同書はパス成功率やポゼッションの議論に関して、次のように断じている。

「パス成功率というのは確かに有用だが、最も重要な武器になるのはターンオーバー(ボールを相手に奪い返されること)を回避できる能力だ。

 ターンオーバーを受ける回数が(相手の)半分以下に収まっているチームは、約44%の勝率を記録している。しかしターンオーバーを受ける回数が(相手よりも)多いチームは、27%弱の試合にしか勝利していない。ボールを保持するのはいい。だがボールを相手に奪い返されないようにできれば、なおさらいい(筆者訳)」

 サッカー界の一般常識を覆す意外な真実は、言わずもがなと思えるような数々のセオリーを地道に検証した上でようやく導き出される。数字を見るのが嫌いな人は、読破するのを断念してしまうかもしれない。

 だが同書は、サッカーにおけるデータ分析とは、どのようなものなのかということを考えていく上でも、きわめて役に立つ。日本版も6月30日に発売されているので、興味のある方は是非、手にとってみてほしい。

アインシュタインと通じるクライフの言葉。

 サッカーにおける統計分析はどんどん進んでいるし、データを計測するテクノロジーも進歩し続けている。ブラジルW杯に関しても、様々なデータを活用した分析記事が掲載され続けるのは言うまでもない。大会が終わればFIFAの技術委員会は、4年前よりもさらに精緻化された分析レポートを発表するはずだ。

 かつてヨハン・クライフは「偶然は必然だ(ピッチ上で起きる出来事には、すべて理由がある)」という台詞を残した。本人が意識していたかどうかはともかく、この言葉は「神はサイコロを振りたまわず」という、アインシュタインの名言をどことなく連想させる。

 僕たちはどこまでサッカーを科学できるのか。そしてスタッツはどこまでピッチ上の真実を教えてくれるようになるのか。最近は羊の数を数えながら、そんなことを考えている。

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