ブラジルW杯通信BACK NUMBER
サッカーはどこまで科学できるのか。
データと直感、その“複雑”な関係。
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph byGetty Images
posted2014/07/04 16:30
ブラジルvs.チリ戦に続き、激しい戦いとなったオランダvs.メキシコ戦。しかし、人間が試合を観た時の直感とデータは時に食い違うのだ。
データが直感と異なる時、一致する時。
ポゼッションに関するデータなどは、その最たるものだろう。もちろん一般的に言うならば、支配率の高いチームの方が勝利を収めるケースが多い。それだけボールを動かせる時間が長くなるからだ。
だが今大会のようにカウンターが主流になっている場合は、支配率の高さが結果に直結しないケースが出てくる。スペインに圧勝したオランダがポゼッションで下回ったことは、前回のコラムで述べた通りだ。
さらにやっかいなのは、ポゼッションの高さが試合の結果に直結しない、とも言い切れない点だ。
好例は、6月29日に行なわれたオランダ対メキシコ戦。試合をご覧になっていた方は、メキシコが序盤から押し気味に試合を進めていたし、オランダは薄氷の勝利を掴んだという印象を持たれたと思う。
だがデータ上は、オランダがボール支配率(55%対45%)、シュート数(14本対12本)、枠内シュート数(8本対7本)、パスの成功本数(461本対311本)、パス成功率(80%対73%)と、ほぼすべての項目でメキシコを上回っている。
ならば危険な攻撃を展開した回数は、メキシコの方が多いのではないかと思いきや、これもオランダが圧倒しているのである(48回対29回)。結果や展開を知らない人が、スタッツを最初に見たならば、オランダが主導権を握ったと思うのでないだろうか。
ブラジルはチリを本当に圧倒していたのか?
似たようなことは、前日に行なわれたブラジル対チリ戦についても言える。たしかにフッキのゴールが誤審で取り消されていなければ、試合は延長からPK戦までもつれ込んでいなかったかもしれない。また支配率こそ僅差で劣ったものの(49%対51%)、シュートの本数ではブラジルが圧倒している(23本対13本)。
だが90分間の戦いに関して、試合からはブラジルが圧倒していた印象は受けない。特に後半は、チリが完全にブラジルを「嵌めた」時間帯もあったほどだ。
誤解のないように言っておくと、僕はデータというものの自体の有効性を疑問視しているわけではない。金銭や国籍にまつわる数字、走行距離数やホットゾーン、勝率といったデータは、収集するのも活用するのも比較的楽だ。
だがメキシコがいかにしてオランダを苦しませたのか、チリがブラジルをいかにして嵌めたのかといったような細かなテーマになってくると、話は違ってくる。データはピッチ上の真実を示すというよりも、特定の説を「後付け」で補足するための道具になってしまう傾向が強い。
いずれにしても、サッカーにまつわるデータが、慎重な取り扱いを必要とするのは明らかだ。