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どちらがセナでプロストなのか?
メルセデスで勃発したチーム内闘争。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2014/05/27 11:30
セナとプロストがマクラーレン・ホンダで競いあったのは1988年からの2年間。ハミルトン(左)とロズベルグは同じ轍を踏むのか?
ハミルトンが仕掛けた心理戦の言葉とは?
チームとして、開幕戦から6連勝を果たしたメルセデスAMG。
モナコGPでも今シーズン、過去5回行われてきたように、優勝を祝う記念撮影会がチーム全員で行われる予定だった。
ところが、記者会見を終えて優勝したロズベルグはすぐにガレージにやってきたのだが、2位に終わったハミルトンはなかなか姿を現さなかった。記者がウォルフを囲んで質問していたのは、ハミルトンが来ないまでの間の時間を利用したものだった。
元F1ドライバーのジョニー・ハーバートは、「こうした状況はモナコGPの前から始まっていたし、今後もタイトルが決まるまで続くだろう」と語る。
例えば、モナコGP前日の会見では、ハミルトンはこんなことをイギリス人記者に語っていた。
「僕は、あまり裕福ではない地域で育ったけど、ニコはモナコに住み、プライベートジェットや高級ホテル、そしてボートに囲まれて育った。だからハングリーさが違うんだ」
もちろん、この話はメディアを通して、ロズベルグの耳にも入っていた。ハングリーさが足りないロズベルグはチャンピオンには値しないというプレッシャーをハミルトンはかけたのである。
「セナのやり方が僕は好きだから、彼をお手本にするよ」
じつは、こうした心理戦は数戦前から始まっていたとウォルフは語る。
「ここ数戦、チームメート同士でちょっとした行き違いがあった。というのも、チームメート同士でレース中にエンジンモードを変えて相手を混乱させていたんだ。バーレーンではニコがやり、バルセロナではルイスがやった。しかし、ウォルフは「今後はそんなことをお互いしないよう、監視していく」と戒めた。
モナコではエンジンモードを使った心理戦は行われなかったが、チーム内の2人緊張感はむしろ高まった。ロズベルグとの関係はアイルトン・セナとアラン・プロストの関係に近づいたかと尋ねられたハミルトンは言った。
「基本的にはそうだ。セナのやり方が僕は好きだから、彼をお手本にするよ」
チームとして、開幕戦から6戦連続でポールポジションと優勝を独占してきたのは、1988年のマクラーレン・ホンダ以来、26年ぶり。
ひとつのチームが突出し、チャンピオンの座がひとつしかなければ、戦う相手はチームメート同士。それは26年前も、いまも同じ。
しかし、どちらがセナになるのかは、まだわからない。