REVERSE ANGLEBACK NUMBER
「マンガのような選手を作らないと」
大谷、今宮が体現する“非現実”。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/04/10 10:40
昨年自身初のゴールデングラブを獲得するとともに、パ・リーグのシーズン犠打記録を更新する62犠打を達成した今宮健太。ショートで2番、まさに「小兵の生きる道」を体現する選手だ。
今宮健太の、あまりにもマンガ的な捕球&送球。
野球における「マンガ道」は平坦ではないなあ。そんなことを思いながら試合を見ていたが、いや、そうでもないぞと思わせるプレーに出くわした。
5回に逆転したファイターズは6回、無死から二塁打で追加点のチャンスをつかむ。1死後、9番の中島卓也の打球が三遊間の深いところに転がる。外野に抜ければ二塁走者は生還するし、遊撃手が捕球しても送球は無理だろう。
ところが、ホークスの遊撃手今宮健太は三塁寄りに走ってこの打球に飛びつきグラブに収めると、立ち上がりざま、すばやく三塁に送球した。きわどいタイミングでセーフかとも見えたが、走者がオーバーランしたこともありタッチアウト。このプレーでホークスは追加点を許さず、9回の逆転サヨナラ勝ちにつなげることができた。サヨナラ安打を打ったのも今宮で、文句なくこの日のヒーローだった。
それにしても6回の今宮の守りは驚きだった。守備範囲の広い遊撃手なら、飛びついて捕球まではできたかもしれない。だが、そこから体勢を立て直して送球するのは容易ではない。特に三塁寄りに飛び込んで捕球したので三塁への送球はできたとしても、トスに近い力ないものになるのがほとんどだろう。ところが今宮の送球はクロスプレーを演出する速く力強いものだった。マンガがここにあったのだ。
プロ野球そのものがマンガの実写版なのでは。
考えてみれば、今宮は大分の明豊高校時代、投手として甲子園に出てきて、171cmという小柄な体で150kmを超えるストレートを投げて観客を驚かせた選手である。その能力が、プロになっていっそう磨かれ、マンガにまで昇華したわけだ。
2年前、藤井康雄打撃コーチに話を聞くため、ホークスのキャンプに行ったことがあった。練習のあとで、という約束だったがなかなか終わらない。今宮の特打が長引いていたのだ。藤井コーチだけでなく、もうひとりのコーチと秋山幸二監督の3人がかりで2時間近くもやっていたのではないか。打撃がものになりさえすれば、今宮の守備力ならリーグを代表するような遊撃手になれる。期待の大きさが3人がかりの指導に表れていた。
大谷のマンガ化は先送りになったが、今宮を見て気づかされた。マンガの素材はひとりやふたりじゃない。どこのチームにもたくさんいる。いや、そもそも普通の人間から見たらプロ野球そのものがマンガの実写版ではないのか。