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稀勢の里の問題は精神力ではない!
学んで欲しい旭天鵬の“技術”とは。
text by
阿部珠樹Tamaki Abe
photograph byJIJI
posted2014/01/29 10:40
稀勢の里は14日目鶴竜戦で痛めていた右足を悪化させ、千秋楽は休場した。28回目の優勝を決めた横綱白鵬は場所後、稀勢の里に対して「いろんな方と出会って、いろんなことを吸収すること」人間的な成長をうながすアドバイス。
初場所は稀勢の里が優勝すれば横綱に昇進するかもしれないということで期待が大きかった。しかし、終わってみれば、その稀勢の里は8日目を終わって3敗を喫し、早々と横綱の可能性がなくなった。そのあとも立ち直る気配がなく、最後は足の親指じん帯を痛めて休場してしまった。来場所はカド番になる。
場所前から稀勢の里の横綱昇進というのはちょっとむずかしいのではないかと思っていた。先場所横綱ふたりを破ったといっても、それは自分の優勝の可能性がなくなった後の話である。0-5で負けている後半44分にたてつづけに決めたゴールみたいなもので、値打ちはそれほどあるように思えなかった。
楽な場面にならないと実力が出せない。そういう人は精神面が弱いと見られがちだ。綱獲りのかかった初場所の前半であっさり取りこぼすのもそうした精神的な弱さと見る向きが少なくない。
典型的なのが5日目に碧山に負けた取組みで、仕切りから異常なほど入れ込み、相手を長いことにらみつけるなど大関らしくない振る舞いを見せ、立合いも呼吸が合わずにやり直したあげく、あっさり負けてしまった。「もっと落ち着けばいいのに」とは誰もが思うことだ。
力のコントロールはハートではなく、技術である。
だが、ああした相撲を見ていると、たんにハートが弱いといったことではなく、基本的な技術に欠けているのではないかとも思う。相撲に必要な力のコントロールができていないように見えるのだ。
いまの大関、横綱の中でも体格に恵まれ、その割りに動きも速い。突き押しもあれば、四つに組んでも取れる。柔軟性も瞬発力もある。ただ、力の出し方がはじめから終わりまでいっしょなのだ。いや、仕切りから、もっといえば、土俵下に座っているときからといってもよい。ずっと同じ緊張感で全力を出すことだけに集中している。車でいえば最初から4速に入れてアクセル踏みっぱなしみたいな状態なのだ。
でも、相撲はそれでは勝てないだろう。トータルの体力、瞬発力も必要だが、すべてのパワーで誰よりも上というわけには行かない。局面で勝てればいいわけで、あとはほどほどでも問題ない。
稀勢の里にもたとえば旭天鵬ほどのコントロール技術があればいいのだがと、取組を見ながら何度も思った。