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縮小均衡ではなく、拡大均衡を!
ヴィッセル・J最年少社長の野望。
text by
並木裕太Yuta Namiki
photograph byKyozo Hibino
posted2014/01/07 16:30
清水克洋社長は、マッキンゼーからヴィッセル神戸に入社した変り種。中学・高校とサッカーをしてきた元サッカー小僧でもある。
観客席の見直しで、数千万円規模の増収に。
並木 ただ単に「赤字だ、けしからん」ではなくて、想定内の赤字か、想定外の赤字かという点が大事だということですね。赤字額が減ってきたのは、どういう経緯なのでしょう?
清水 大きく3つのタームに分けられると思います。'04、'05年頃は10億円前後の赤字があったわけですが、当時は有名な選手を獲得したり、事業でも様々な取り組みを試行錯誤した期間でした。それを'06年から、必ずしも知名度はなくても伸びしろのある若手選手を発掘・育成していこうという方針に切り替えました。そうやってチームの地力をつけていった'06~'09年は並行して収入も伸び始めて、赤字は5億円前後になりました。'10年以降は、さらに収支の改善を図っていこうという方針のもと、1~2億円まで赤字を減らすことに成功しています。
並木 具体的には、どんな策が功を奏したのでしょうか。
清水 例えば、私が'08年に入社して手がけた最初の仕事は、観客席の見直しです。VIP席の改修を行なったり、ピッチの迫力を間近で感じられる「砂かぶり席」を他クラブに先駆けて導入したり。'09年からは試合の入場料を2段階制にしました。
例えばスペインでは、バルサの試合は入場料が高くなる、ということが当たり前のように行なわれています。お客様にとってはいろいろなお声もあるかもしれませんが、価値のある試合に関してチケットの値段も高くなるのは、プロとして、ある意味では自然なことだと考えています。昨季の場合、シーズンシートを除く試合ごとのチケット販売では、全21試合のうち4試合だけで全販売数の約4割、6試合でほぼ5割を占めます。観客動員の見込める上位数試合のチケットの価格向上は、クラブとしては数千万円規模の増収になります。
J1とJ2では平均して3倍の収入格差がある。
並木 なるほど。ここまでは順調に立て直してきたわけですが、昨季はJ2での戦いということになってしまいました。一般的に、J1からJ2に降格すると収入面ではどれくらい落ちるものですか。
清水 J1、J2それぞれのアベレージでは3分の1くらいになります(※'12年度の平均営業収益は、J1が31億5200万円、J2が9億3600万円)。ヴィッセルとしても、スポンサーで1~2億、チケットで1~2億、分配金のマイナスが1億で、トータル5億円くらいの減収も覚悟していたんですが、実際はそこまでの落ち込みはありませんでした。'06年のJ2降格時はシーズンシートの販売数が約1,500席でしたが、昨年は3,800席だったんです。全体の試合平均動員も、7年前の約2倍となる11,500人でした。ヴィッセルを好きになってくださる方を、少しずつ増やすことができたからこそ降格のダメージを最小限に抑えることができたんです。本当に、華やかなことなんてなくて、じわりじわりという世界なんです。