スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
有罪判決の名物会長が見せた涙と愛。
「ビバ、セビージャ!」
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byREUTERS/AFLO
posted2013/12/24 10:30
12月9日の辞任会見、思わず涙をこぼすデル・ニドの姿はクラブへのあくなき愛を感じさせた。
聞いている方が照れてしまう、まっすぐな言葉の数々。
「ルール違反を承知で戦う。なぜなら、これからはプエルタを加えた12人で試合を戦うからだ」
これは試合中に意識を喪失したアントニオ・プエルタが急逝して間もなく、ミランとのUEFAスーパーカップに向かう際に発した言葉である。この言葉に代表される通り、聞いている方が照れ臭くなるほどのまっすぐな言葉の数々はセビージャ戦を見る際の楽しみの1つだった。今後それが聞けなくなるのは寂しい限りだ。
辞任発表会見の日、会見場があるスタジアムのすぐ外には「泥棒はセビージャから出て行け」と書かれた横断幕を掲げたグループが陣取り、野次を飛ばしていた。
「最も望まぬ日が来てしまった。傷ついた心臓の一部を取り除かれる思いだ。会長の立場で犯罪者となってしまったことは謝りたい。辞任しなかったのは自分が正しいと信じていたからで、こうなることが分かっていたらもちろん辞めていた」
神妙な面持ちでそう語った後、デル・ニドはこう付け加えた。
「クラブの汚点となってしまったかもしれない。だが利口な人々は私の個人的な問題と会長としてやってきた仕事を分けて考えることができるはずだ。これまで見せてきた経営とクラブ愛を評価してほしい」
「ビバ、セビージャ!」
自身の非は認めるも、27年間クラブに尽くしてきた自負は揺るがない。彼らしい発言とは裏腹に、その目に浮かぶのはいつもの鋭い眼光ではなく、一筋の涙だった。
その涙を拭った後、彼は再び表情を引き締め、おもむろにこう叫んだ。
「ビバ、セビージャ!」
すると、会場に居合わせた関係者や記者たちが、半ば反射的に続けて叫んだ。
「ビバ!!」
その間も、外では野次が飛び続けている。それはセビジスタにこよなく愛され、嫌われ続けた名物会長の四半世紀が凝縮された光景だった。