スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
有罪判決の名物会長が見せた涙と愛。
「ビバ、セビージャ!」
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byREUTERS/AFLO
posted2013/12/24 10:30
12月9日の辞任会見、思わず涙をこぼすデル・ニドの姿はクラブへのあくなき愛を感じさせた。
黒字化、クラブ史上最高の黄金期、放映権問題への取組。
こうした強気の交渉によって多額の利益を生み出した彼は就任前の公約通り、4000万ユーロもの負債を抱えていたクラブの財政を数年のうちに黒字に転換してみせる。
しかも、それと並行してチームは敏腕スポーツディレクターの“モンチ”ことラモン・ロドリゲス・ベルデホの的確な補強によってみるみる力をつけ、UEFAカップ連覇やコパデルレイ優勝など、4シーズンで計6タイトルを獲得するクラブ史上最高の黄金期を築き上げる。
その強引なまでの交渉力は、長らく問題視されてきたテレビ放映権料の不平等な分配率の改善においても重要な役割を果たした。
ビジャレアルのフェルナンド・ロイグ会長と共に中小クラブの先頭に立った彼は、「リーガは(2強の間だけで優勝を争う)スコットランドリーグ化したくそリーグだ」「我々は革命を起こす。これはフランス革命と同じだ」「待遇が変わらないならバルセロナとレアル・マドリーを除いた18チームで新リーグを作る」といった過激発言を繰り返し、2大クラブの言いなりだった多くのクラブに共に戦うよう訴えてきた。
結果として、プロリーグ機構(LFP)が重い腰を上げ、2015年以降は放映権の一括管理が実現する運びになったのも、デルニドの強烈なリーダーシップがあったからに他ならない。
多くの敵を作りながら、同様に愛され続けてもきた。
こうしてクラブ内外で強烈なカリスマ性を発揮してきたデル・ニドだが、ここ数シーズンは主力の放出が続く傍らで監督人事や選手補強の失敗が続き、ここ5年はリーガでも、3位、4位、5位、9位、9位とチームの成績も尻すぼみに低下していた。
さらには相次ぐトラブルを受けゴール裏の過激派集団「ビリス・ノルテ」の排除に乗り出したことで、名物会長に対するファンの風当たりは悪化の一途を辿っていた。
それでもデル・ニドが最後の最後まで会長職を辞さなかったのは、本人の意思はもちろん、周囲が続投を求めたからでもある。
「Si o Si」(=イエスorイエス)が口癖で、自分が正しいと信じたことは何が何でも貫く。その実直さ、そして「うちの監督は世界一」「うちの選手は世界一」と真顔で公言する親バカならぬ「会長バカ」ぶりにより、彼は多くの敵を作りながらも愛されるキャラクターであり続けてきた。