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有罪判決の名物会長が見せた涙と愛。
「ビバ、セビージャ!」
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byREUTERS/AFLO
posted2013/12/24 10:30
12月9日の辞任会見、思わず涙をこぼすデル・ニドの姿はクラブへのあくなき愛を感じさせた。
リーガ・エスパニョーラがまた1人、一時代を築いてきた名物会長を失うことになった。
12月5日、スペインの最高裁判所で行われた「ミヌータス事件」の裁判にて、セビージャのホセ・マリア・デル・ニド会長が懲役7年と5年半の弁護士資格停止処分、賠償金278万6000ユーロの実刑判決を受けたのである。
マルベージャ市のリゾート地開発計画に際して同市役所内で行われた不正取引と贈収賄が発覚した同事件において、デルニドは同市役所の顧問弁護士として横領、汚職に関与した容疑をかけられ、2011年12月に有罪判決を受けていた。
当時は「最高裁から有罪判決が下されない限り、私は潔白だ」と主張。一部ファンや関係者の反対を受けながらも会長職を継続してきたが、確定判決が出た今回はさすがに逃げ道がなかった。4日後の9日、デル・ニドは本拠地ラモン・サンチェス・ピスファンにて辞任を発表。単期ではクラブ最長となる11年6カ月と12日続いた長期政権の幕を下ろすことになったのだ。
1ユーロたりとも譲らない強烈な商売根性。
父親が元副会長という代々セビジスタの家庭に生まれたデル・ニドは、1986年に28歳の若さでクラブ経営に関わりはじめた。会長に就任したのは2002年5月のことだが、それから11年半にわたるクラブ経営で最も際立ったのは、1ユーロたりとも譲らない強烈な商売根性だ。
2004年1月にはチームの顔だったカンテラ出身のホセ・アントニオ・レジェスを売却して大いに叩かれながら、「クラブ旗とエンブレム以外に替えのきかないものなどない」と全く動じなかった。新スタジアムを建設途中で補強資金が乏しかったアーセナルから当時クラブ史上最高額の移籍金3500万ユーロを引き出したことが評価されたのは随分と後のことだ。
その半年後にはやはりカンテラ出身で売り出し中のセルヒオ・ラモスにレアル・マドリーが目を付けると、「彼が欲しいクラブはIVA(付加価値税)も含めて全額現金で持ってこい」と豪語。移籍市場が閉まるぎりぎりまで粘りに粘った末、19歳のスペイン人サイドバックとしては破格となる移籍金2700万ユーロを払わせた。また同夏には2年前に300万ユーロで購入したジュリオ・バチスタも2500万ユーロの高値でレアル・マドリーへ売却している。