オリンピックへの道BACK NUMBER
元五輪選手が紛争地帯で獅子奮迅!
井本直歩子が選んだ、第二の人生。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byNaoko Imoto
posted2013/12/15 08:01
2009年には、日本版Newsweekの「世界が尊敬する日本人100人」に選ばれた井本直歩子。
国が戦争している選手、破れた水着で泳ぐ選手。
オリンピックにも出た選手としてのキャリア、数々の国をまわっての復興支援。異色とも言える経歴を描く原点は、選手であったときの経験にあった。
中学生の頃から国際大会に出場するようになった井本は、大会の中で多くの国々の選手を見た。
国が戦争していて大変な環境のはずなのに参加している選手がいた。
破れた水着で泳ぐ選手がいた。
レースのために「炭水化物を多めにしよう、ビタミンを摂ろう」と考えて臨んでいるかたわら、とにかく食べる選手たちがいた。選手村の食事が無料であるからだった。空になったアイスクリームやプリンのカップを積み上げる姿に、その選手たちの置かれている環境を思い、充実した時間を過ごし「恵まれている」自分との差を思わずにはいられなかった。
「歳を取っていくと丸くなってくはずなのに、反対ですね」
高校生になり、紛争復興へと関心を寄せるようになっていた井本は、高校3年のとき、ふと新聞紙面に発見したベタ記事と言ってよい小さな記事に目が釘付けになった。そこには、ルワンダで虐殺が起こっていることが記されていた。卒業する前には、選手をやめたあとの道を見定めていた。
各国で、その国の大臣とやりあい、周囲のスタッフともストレートに話し合ってきたと言う。
「ふつう、歳を取っていくと丸くなってくはずなのに私の場合、反対ですね。逆にどんどん強くなっていって、シビアに結果を求めるようになった」
どうにも前へ進まない、うまくいかない、そんな壁にぶつかることも多々ある。それでも、
「私があきらめたらそれで終わっちゃう、という感じのときはけっこうありました。選手であったときに培われた粘り強さはとてもいきていると思うんです」
容易に結果の出ない世界で、少しでもよくなれば、と動く中、しかし、実感してきたこともある。
「スポーツの力」である。