ブックソムリエ ~新刊ワンショット時評~BACK NUMBER
僕らが再発見する緩慢さについて。
~『緩慢の発見』に見る本質とは?~
text by
幅允孝Yoshitaka Haba
photograph byRyo Suzuki
posted2013/12/11 06:00
『緩慢の発見』シュテン・ナドルニー著 浅井晶子訳 白水社 2800円+税
遅いということが価値を持つなんて、あなたには信じられるだろうか?
近現代のスポーツは、競争相手よりも速く、強い者が称えられてきた歴史をもつ。けれど、18~19世紀の大英帝国で活躍した探検家ジョン・フランクリンの生涯を描いたこの小説では、彼が鈍重だったゆえ発見できたものについて語られる。
「遅い者は、より多くを見る」
10歳になってもボールをうまく受けられないジョン少年。友人たちとのボール遊びでは、専らコートを分かつ紐を持ち続けるのが彼の担当だ。だが、その紐は美しくぴんと張られ、決して動くことはない。「かかし!」などという揶揄も、彼にはよく聞こえない。ただ、じっと正確に、自身の任務を完遂する少年。