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徳島ヴォルティスが流した2つの涙。
津田知宏の胸に去来するあの“記憶”。 

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戸塚啓

戸塚啓Kei Totsuka

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photograph byAFLO SPORT

posted2013/12/10 12:00

徳島ヴォルティスが流した2つの涙。津田知宏の胸に去来するあの“記憶”。<Number Web> photograph by AFLO SPORT

ユースから上がってプレーしていた名古屋グランパスから徳島へ移籍したのは2010年のこと。「高校時代からお世話になった名古屋とJ1の舞台で戦いたい。名古屋に行くのが楽しみです」と語った津田。

昇格のかかったゲームの準備の仕方がわからなかった。

「点を取ってもPKだったり、こぼれ球を押し込んだりとかで、自分の形で取れていなかった。納得のいかないものばかりで。それでも1試合ずつ気持ちを切り替えれば良かったんですけど、リーグ戦の終盤はその切り替えができなかった。いま振り返れば、昇格のかかったゲームでどういう準備をしていいのかが、わからなかったのかもしれません」

 ほとんど質問を必要としない告白は、30分以上続いた。話すことで気持ちが整理されていったのか、当時25歳だった津田の表情に落ち着きがにじむ。J1昇格への思いを聞かれると、かすれ気味の声に決意が宿った。

「それを聞かれると、どこから、何から、話していいのか、分からないぐらいです。ホントに色々な思いがありますけど、いまここで話せるとしたらひと言だけです。絶対にJ1へ上がる」

2013年、昇格を決定づけるゴールを奪ったのは津田だった。

 2013年12月8日、ヴォルティスは京都サンガとのJ1昇格プレーオフ決勝に臨んだ。39分に千代反田充のヘディングシュートで先制したヴォルティスは、前半終了間際の43分に値千金の追加点を奪取する。

 ゴールネットを揺らしたのは津田だった。

 今シーズンのJ2では'10年以来の2ケタ得点(14点)を叩き出したものの、リーグ終盤は9試合無得点と不振に喘いだ。しかし、チームに価値あるPKをもたらした千葉との準決勝に続いて、背番号11は土壇場で大きな仕事をやってのけた。

「自分が決めれば勝点を取れていた試合もいくつかあったので、チームのみんなに申し訳ない気持ちでした。でも、気持ちを切り替えてプレーオフに臨むことができた。その結果が千葉戦のPKであり、今日のゴールにつながりました」

 キャプテンマークを巻いた27歳に代わって、75分からピッチに立ったのは斉藤大介である。守備を引き締めるこのボランチも、「あと一歩」の悔しさを知るひとりだ。

 2012年2月の宮崎で、斉藤は「昇格するために足りなかったものをあげるのは難しい」と話している。ただ、と彼は付け加えた。

「選手、スタッフ、サポーターのみんなが、最後まで緊張感のあるなかで昇格争いをしたのは、必ずこれからにつながります」

 津田に代わって腕章を巻き、表彰式で優勝楯を高々と掲げた斉藤は、試合後にこう話している。自らの仕事を黙々とこなすベテランの胸でも、2年前の思いは息づいていた。

【次ページ】 四国勢初の昇格、しかしJ1はそんなに甘くない。

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