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徳島ヴォルティスが流した2つの涙。
津田知宏の胸に去来するあの“記憶”。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byAFLO SPORT
posted2013/12/10 12:00
ユースから上がってプレーしていた名古屋グランパスから徳島へ移籍したのは2010年のこと。「高校時代からお世話になった名古屋とJ1の舞台で戦いたい。名古屋に行くのが楽しみです」と語った津田。
軽やかにつながれてきた言葉が、ふいに途切れた。ピッチで流し切ったはずの涙が、津田知宏の涙腺を再び刺激している。
「試合が終わった瞬間は2年前の悔しさを思い出して、ちょっとグッときて……その思いだけと言っていいぐらいの気持ちで、自分はやってきましたので」
用意された椅子に腰を下ろした津田は、表情にうっすら戸惑いの色が浮かべていた。これから何を聞かれるのか、彼には分かっている。
「そりゃあもう、落ち込みました。こんなことはいままでないっていうぐらいに」
昨年春、キャンプ地宮崎で津田は苦しんでいた。
来るべき2012年のJ2リーグへ備えて、津田が所属する徳島ヴォルティスは宮崎でキャンプを行なっていた。シーズン開幕まで1カ月を切り、トレーニングの強度は徐々に上がってきた。小林伸二新監督の大きな声が、グラウンドに絶え間なく響く。
津田も精力的に汗を流している。だが、ピッチを離れてホテルへ戻ると、3カ月ほど前の悪夢が脳裏を過るのだ。何度も、何度も。
「どうやって気持ちを切り替えたか、ですか? うーんっ、いまもまだ、ちょっと、切り替えられていないかもしれないですね」
2011年冬、昇格争いを繰り広げていた徳島ヴォルティス。
2011年のJ2リーグで、ヴォルティスは最終盤まで昇格争いを繰り広げた。残り2試合の段階で、勝点65の3位につけていた。このままトップ3を維持すれば、四国勢初のJ1昇格をつかみとることができる。
37節の相手は、2位のサガン鳥栖だった。
ゲームは開始早々に激しく動く。ヴォルティスは開始6分に先制点を許すが、2分後にPKを獲得する。ところが、徳重隆明のキックがGKに阻まれてしまうのだ。リズムをつかみきれないままさらに2失点を喫し、ヴォルティスは0-3で敗れてしまった。
得失点差で大きく上回るサガンは、この時点で実質的に3位以内を確定させた。残るひとつの枠は、勝点を65に伸ばして3位へ浮上してきたコンサドーレ札幌と、4位に後退したヴォルティスが争うことになった。