スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
選手獲得競争が箱根駅伝をダメに!?
大学に求める「勧誘条件の平等化」。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byYUTAKA/AFLO SPORT
posted2010/12/29 08:00
多額のマネーが動くようになった箱根駅伝。シンプルな大学対抗戦というより、大学の営業ツールとしての存在感を年々強めてきている
地方から首都圏へ進学させる余裕のある家庭は多くない。
たしかに中国、九州地方などは、陸上長距離界では素質の宝庫とされている。
高校で頭角を現した選手のほとんどは、箱根で走ることを希望する。ただし、地方の家庭から子どもを東京の大学に進学させるのは、大きな決断が必要となる。まして弟、妹がいる家庭はなおさら、選手である兄を首都圏の大学に送り込む経済的な負担は大きいだろう。
選手の中には進学をあきらめ、実業団に就職する選手もいるが、現実に目を向けると、各大学間の「財布」の競争になっているのが実情だ。
財布とは、奨学金や寮費など、選手に対する経済面でのバックアップ体制のことである。
しかしこれは陸上部の一存では決められることではなく、大学側がどんな体制を提供してくれるのか、ということである。現在、箱根駅伝は大学間の言ってみれば「ロジスティクス」、陸上部に対する補給線の戦いになっているのだ。
では実際、大学はどんな手段で選手を勧誘しているのか?
大学側の陸上部に対する補給には、様々な形がある。
まずは選手に対する推薦枠。
スポーツ推薦は多くの大学で行われているが、大学側がアスリートに対してどれだけの枠を用意するのか、大学側の意気込みが問われている。
さらには入学後の授業料。入学初年度には100万円を超えるお金が必要だが、大学によっては陸上や高校時代の成績によって全額免除や半額免除、あるいは奨学金という形をとる場合もある。
そして寮費の納入に関してもOB会が補助しているところもあり、選手獲得競争において選手の勉強、そして生活面における経済的なバックアップの有無が、進学先決定において大きな意味合いを持つようになってきた。
こうした状況を踏まえて箱根駅伝を俯瞰した時、大手町と箱根の往復で競われているのは選手の能力、努力、コーチングの質ばかりではなく、大学側が提供するインフラ、陸上長距離ブロックの「土台づくり」をめぐる競争を繰り広げていると言っていい。
本当の意味で、競争の公平化を期すならば、学費免除、奨学金給付の人数をすべて同じにするべきだと思う。