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田澤純一は親しみやすい“宇宙人”?
メジャー流育成の、新たなスター像。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byAFLO
posted2013/11/08 12:00
世界一を決め、上原浩治とともに無邪気に喜びを表す田澤純一(左)。日本球界にはあまりいないタイプの、気さくな男だ。
茫洋とした佇まいの中に漂う「大物感」。
もちろん、もともとの資質もあるのだろう。
横浜商大高の1つ先輩で、2003年夏、甲子園出場時のエースだった給前信吾は田澤のことをこう記憶している。
「田澤が入部してきたときは、ぜんぜんたいしたことなかったんです。体もトンボみたいで、いっつも死にそうな顔で練習してるんですよ(笑)。でも田澤が2年生になる頃には、プロの評価はあいつの方が高かった。でもハートが弱いので、試合になると結果が出なかった。それで僕が最後までエースを任されたんです。でも今思うと、こういう選手がプロで活躍するのかな、って思いますね。人間っぽい、っていうより、どこか宇宙人みたいなやつでしたから(笑)」
給前の言いたいこともわかる。確かに、茫洋とした佇まいの中に、そんな「大物感」が漂っていると言えばそうなのだ。
だが、むしろそんな田澤には、何事につけ鷹揚なアメリカの野球が合っていたのかもしれない。
「育成は日本」という論法はもう通用しない。
先日、田澤はレッドソックスの中継ぎ投手としてワールドシリーズ制覇に存分に貢献してみせた。
これではっきりした。もう「育成はアメリカより日本」という論法は通用しないということだ。田澤という成功例が出たわけだから。
田澤の成功を見て、今後、あとに続く者も出てくることだろう。昨年の大谷翔平のように、日本のドラフト1位候補の実力者でありながら、日本のプロ野球を経ずにアメリカへ渡ろうとする者だ。
これまでアマチュアから直接アメリカに渡った日本人選手のその後のデータは、日本ではドラフトにかからない選手のものばかりだった。しかし、やはり実力があれば、アメリカでも十分やっていけるのではないか。田澤がアメリカの、もっといえばレッドソックスの育成システムに惹かれてチームを選んだように、アメリカの方が優れた点もあるはずだ。
そして、もちろんみんながみんなそうなるわけではないのだろうけど、田澤のような親しみのあるスター選手に育つのであれば。日本のプロ野球を目指すのではなく、アマチュアから即メジャーとういう選択肢も悪くないのではないかと思う。