セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
カカ、ミラン復帰も続く苦難の道。
ブランクを示す“なめらかな”背中。
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byREUTERS/AFLO
posted2013/09/21 08:01
ミランで苦悩の日々を過ごすカカ。かつてバロンドールの栄誉を手繰り寄せた地で、再び輝きを放つ日は訪れるのか。
ミランの“出戻り組”にまつわるジンクスとは。
カカの古巣復帰に、歓迎ムード一色のミランはともかく、もともと外野には賛否両論の声があった。現在の欧州に3人しかいない現役“バロンドーラー”の移籍とあって、イタリア国外の監督たちがカカ復活に寄せる関心も高い。
ビラスボアス監督(トッテナム)が「カカのプレーヤーとしての才能に議論の余地はない。互いの哲学をよく知る選手とクラブ同士なのだから再ブレイクは可能」と言及する一方、ベテラン指導者のルチェスク(シャフタール)は「レアルで3年もろくにプレーしていなかったのだ。あまりに長すぎる」と手厳しい意見を述べている。国内のライバルであるナポリの新指揮官ベニテスも「カカの今シーズンをポジティブに想像するのは難しい」と懐疑的だ。
そもそも、ミランには“出戻り組は好成績を残せない”というジンクスがある。
古い例でいえば、'89年と'90年のチャンピオンズカップ連覇の原動力となったルート・フリットは、サンプドリアでの1年を経て'94年に32歳で復帰したが、当時の指揮官カペッロと衝突し、往時の輝きを取り戻せなかった。
記憶に新しいところでは、'99年からの7シーズンで計127ゴールを挙げた名ストライカー、シェフチェンコはチェルシーでの不振を払拭すべく、'08年に1年レンタルで出戻った。だが、決めたゴールはカップ戦の2得点のみ。'04年のバロンドール受賞者も古巣復帰は、寂しい結果に終わった。
オーナーとサポーターの支持でアンタッチャブルな存在に。
選手だけではない。'80年代後半から'90年代中盤にかけ、数々のタイトルをもたらしたサッキとカペッロの名将2人ですら、ミランのベンチに戻った'96年と'97年に、それぞれ11位と10位という成績しか残せなかった。
カカが挑もうとしているのは、偉大な先人たちがいずれも失敗した歴史的難業なのだ。
賢明な指揮官アッレグリは、すでにチームが孕む問題に気づいている。
移籍市場最終日を境に、ミランはカカ起用を絶対条件とするチームと化した。オーナーとサポーターの絶対的な支持を持つカカは、本人の意向とは別次元で、すでに“アンタッチャブル”な存在になっている。
カカ再生をチームの勝敗より優先させる愚行をアッレグリが犯すはずもないが、すでに走り始めているシーズン中のチーム改造は、容易なことではない。指揮官はトリノ戦後、「われわれは新しいチームバランスになれる必要がある」と暗にカカ起用の難しさを語った。