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「スパートではアフリカ勢に勝てない」
新谷仁美、戦略と割り切りの5位入賞。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTakashi Okui/AFLO
posted2013/08/26 10:30
ラストのスパート勝負でアフリカ勢にかわされたものの、終盤まで先頭を走る積極的なレース展開で5位入賞を果たした新谷仁美。圧倒的なスピード差を見せ付けられても、メダルという目標は全く揺らいでいない。
陸上がきらきらしていた時代に戻したい。
昨年末、全日本実業団女子駅伝で優勝したあと、新谷は自分の走りに満足がいかないと言いつつ、ふと、こう語った。
「私が高橋尚子さんや野口みずきさんを見ていた頃は、国民の皆さんもきらきらした目で陸上を見ていた時代でした。もう一度かつての、陸上がきらきらしていた時代に戻したいんです」
ロンドン五輪を経て、そう感じたという。
ロンドンでの新谷は、1万mで、当時の自己ベストをマークしての9位。その走りは陸上界では評価されたが、世間的にはそうではなかった。内容がどうあれ、やはり結果を出してこそ、メダルを獲ってこそ、関心を持ってもらえる。
以来、「行動で示していかないといけないですからね」と、より強く結果を残すことにこだわってきた。だからこそ、世界陸上でメダルには届かなかったことを、心底悔しがったのだ。それは新谷の意識の高さを表してもいる。
自分の戦い方を突き詰め、貫いての入賞。
メダルを手にできなかったことに本人はもちろん満足してはいないだろう。
ただ、自分の戦い方を割り切り、ぶれることも迷うこともなく突き詰めての入賞は、十分に評価されるべき結果である。何よりも、困難だと思われていた中でも活路を示したことは、1万mにかぎらず、他の種目にも影響を与えるものだ。
そういう意味でも、印象の強いレースとなった。
今大会では、男子200mで飯塚翔太がロンドン五輪の予選落ちから、準決勝進出と一歩階段を上がった。また、初めて世界選手権に出場した短距離の桐生祥秀も「ファイナルや準決勝に進む難しさが分かりました。しっかり地に足をつけて頑張りたいと思います」と、貴重な経験を得た手応えを感じていた。
棒高跳びでも、21歳の山本聖途が日本選手として同種目最高の6位入賞を果たした。
ロンドン五輪の翌年、リオデジャネイロ五輪へ向けてのスタートのシーズン。若い世代の成長もあり、日本勢にとって先々への貴重な第一歩にもなったのが今回の世界選手権だった。