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「スパートではアフリカ勢に勝てない」
新谷仁美、戦略と割り切りの5位入賞。
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTakashi Okui/AFLO
posted2013/08/26 10:30
ラストのスパート勝負でアフリカ勢にかわされたものの、終盤まで先頭を走る積極的なレース展開で5位入賞を果たした新谷仁美。圧倒的なスピード差を見せ付けられても、メダルという目標は全く揺らいでいない。
ロシア・モスクワで行なわれていた世界陸上選手権が8月18日、閉幕した。
日本選手団の成績は、メダルが女子マラソンで福士加代子が獲得した銅の1つ、入賞は7。大会前に目標として掲げていたメダル1、入賞5をクリアした。期待を集めつつ不調に終わった選手もいたが、全体としては、上々の結果を残すことができたと言える。
その中でも印象的だった一人が、1万mで5位入賞を果たした新谷仁美であった。
トラックの5000、1万mは、アフリカ勢の台頭と年々増してくる層の厚さもあり、日本人の上位進出が厳しい種目と考えられてきた。その中にあっての5位であり、しかもタイムはオリンピック、世界選手権を通じて同種目では日本人史上最高の30分56秒70。内容、結果ともに見事だった。
何よりも強い印象を残したのは、積極的な走りだ。新谷は3500mを過ぎたあたりで先頭に立つと、終盤まで集団を引っ張り続けた。最後にアフリカ勢4人にかわされたものの、走りからは強い意志が感じられた。
そこには、「割り切り」があった。
「最後のスパートでは、どうやっても勝てない」
これまで、国際大会で何度もアフリカ勢と競ってきた。その中で、どうすれば勝てるのか、模索を続けた。
行き着いたのは、「最後のスパートでは、どうやっても勝てない」という結論だった。どれだけトレーニングで鍛えても、その部分で追いつくことはできない。
ならば、スパートの争いになる前で、勝負するしかない。前半からペースをあげていくことで相手を消耗させる。そこにしか活路はないと新谷は考えた。
そうしたレース展開を想定して準備を整えて臨んだことが、今大会での5位入賞につながった。
しかし、当の本人は、この結果を喜んではいなかった。
「メダルでなければ」と号泣したという。
新谷は、常々、よくこう口にする。
「走ることは仕事なので」
「プロとして」
仕事、プロである以上、結果を求められる。だから、いつも結果にこだわってきた。
そして心の奥には、陸上競技のあり方へのこだわりもある。