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セナやシューマッハーを越えるのか!?
F1史上最年少王者の“神童”ベッテル。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2010/11/16 12:00
「何を注意すればいい?」
日曜日の決勝レース。スタートまで10分を切るというギリギリのタイミングで、コクピットに座っているセバスチャン・ベッテルから呼び出されたのは、ブリヂストンの浜島裕英MS・MCタイヤ開発本部フェローだった。
その瞬間、14年間のF1活動で数々の名チャンピオンと仕事してきた浜島は、23歳のベッテルに、ブリヂストンにもっとも多くの勝利をもたらした皇帝シューマッハーの姿をオーバーラップさせたという。
「とにかく、あきらめない。そして、どんな些細なことも疎かにしない男だ」
勝つため、速く走るために一切の妥協をしない男・ベッテル。
それは、金曜日のことだった。一日の仕事を終えたホテルへ向かう浜島に一本の電話が入ってきた。
「いま、どこ?」
相手はベッテルだった。「いま、駐車場を出たところだよ」と浜島が告げると、「Shit(くそっ)!!」と舌打ち。「わかった、わかった。いますぐ戻るよ」と、浜島はクルマをUターンさせた。
'07年から今年まで、F1はブリヂストンのワンメイク体制。そのため、ブリヂストンは全チームのデータを持っている。当然ながら、他チームの情報を公開することはない。しかし、全体の中で自分たちのチームがどの程度のレベルにあるのかを問うことは可能である。例えば、タイヤの摩耗度は平均的なのか、あるいはひどいのか。例えば、走行後のタイヤの表面温度は全体的に見て高いほうなのか、あるいは低いほうなのか。
電話で呼び戻したベッテルが浜島に尋ねたのは、空気圧についてだった。
そのとき、浜島はすべてのデータを持ち合わせていなかったため、即答はできなかった。宿題を持って帰った浜島はホテルでデータをチェック。土曜日の午前中にサーキットに到着すると、ベッテルを呼んで前夜の続きを説明したという。
浜島の説明をうなずきながら聞いていたベッテルは、それから数時間後に行われた今年最後の公式予選で10回目のポールポジションを獲得する。