プロ野球亭日乗BACK NUMBER
原監督が日本一を託したい男……。
西村健太朗は「神」になれるか?
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph byNanae Suzuki
posted2013/08/19 10:31
すでに50試合に登板し、12球団トップの30セーブをマークしている西村(8月15日現在)。防御率も1.38と、抜群の安定感を誇る。
昨年の巨人・西村健太朗は、その瞬間にシーズンで積み上げてきた信頼をすべて失った。
チームがリーグ優勝にマジック1として迎えた9月21日のヤクルト戦。それまで29セーブを挙げて優勝の原動力となってきた右腕が9回、満を持して胴上げのマウンドに上がった。
だが、マウンドの背番号35の動きがどこかぎこちない。
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2位以下を大きく突き放して、チームの優勝は時間の問題だった。この1試合に負けても、大勢にほとんど影響はないはずである。それでも優勝決定試合というプレッシャーに、西村は平常心を失ってしまっていたのである。
ボールが先行していつものピッチングがなかなかできなかった。結果的には走者を一人出しただけで0点に抑えて栄えある胴上げ投手とはなったのだが……。
このプレッシャーへの弱さが、シーズンを通して積み上げてきた信頼を簡単に崩壊させてしまった。そして日本シリーズでは第4戦でリリーフに失敗して負け投手になると、日本一のマウンドはクローザーの座を山口鉄也に譲らざるを得なかった。
そしてそのオフ、チームは新たな守護神候補として元ニューヨーク・メッツのマニー・アコスタ獲得を決めた。
山井の完全試合中断の直後、淡々と三者凡退に仕留めた岩瀬。
「まだまだ信頼されていないと思った」
西村はアコスタ獲得のニュースを見た瞬間を思い出してこう語る。そしてその失われた信頼を取り戻すために、今年のマウンドに上がり続けてきたのである。
単なるクローザーから守護神となるためには何が必要なのか?
思い出すのは2007年の日本シリーズ第5戦で、完全ペースの中日・山井大介を9回に岩瀬仁紀にスイッチした落合博満監督の試合後の言葉だった。
「あのマウンドに上がって淡々と3人を打ち取って帰ってきた。みんなはもっとそのことを評価すべきだ」
勝てば日本一という試合。点差は1点。しかも8回まで先発の山井が一人の走者も出さずにリードを守ってきて、最後の1回を託されたマウンド。
まさに究極のプレッシャーの中で岩瀬は最後のイニングを三者凡退で片付けてベンチに帰ってきた。
「生涯で一番プレッシャーを感じたマウンド。投げたくないという自分もいた」
岩瀬自身はこう述懐するが、その重圧を感じながらピッチングには微塵もそれを出さなかった。完全試合論議が燃え盛る中、守護神として岩瀬を最大限に評価すべきところがそこだった。