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リスク管理よりも絶えざる変化を。
柿谷を輝かせるセレッソの哲学。 

text by

細江克弥

細江克弥Katsuya Hosoe

PROFILE

photograph byTakuya Sugiyama

posted2013/08/13 08:03

リスク管理よりも絶えざる変化を。柿谷を輝かせるセレッソの哲学。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

代表の中で大きな存在感を放ち続けているセレッソの風。柿谷曜一朗が加える変化は、チームをどう進化させるのか。

たった一度のボールコントロールで空気を変える。

 開始直後の3分には南野拓実のシュートのこぼれ球に反応し、GK北野貴之との駆け引きを制してゴール左隅に先制弾。26分にはピンチから一転、マイボールになった瞬間に相手最終ラインの背後に飛び込み、トップスピードに乗ってシンプリシオのロングフィードを引き出した。スピードを殺さない美しいファーストタッチで追いすがるDFを置き去りにすると、またしてもGK北野との駆け引きを制してゴール左隅に流し込む。

 1点目はこぼれ球をダイレクトで打たずに一度右足でボールを押し出したこと、2点目は華麗なファーストタッチに続く2タッチ目の絶妙なコントロールがGK北野との駆け引きにおける勝因となった。柿谷は、決定機に際しても常にボールを自身のテリトリーに置くことができる。それを実現する技術と冷静さが彼の決定力を裏付けている。

 64分に生まれたチーム3点目のお膳立ても見事だった。左サイドでパスを受けて中央に切り込むと、小さく鋭いキックフェイントで縦へ。DFが足を出そうとするタイミングでもう一つ前にボールを押し出し、左足で柔らかいクロスを上げた。

 暑さが体力と精度を奪うことで生まれる停滞ムードが、柿谷にボールが渡るたびに大きな期待感へと変わった。たった一つのゴール、たった一度のボールコントロール、たった一人抜くだけで、彼は空気を変えることができる。

エースのポテンシャルを引き出す多彩な共演者たち。

 もっとも、柿谷の動きに気を取られて狭くなりがちな視野を広げてみると、C大阪が、チーム全体としていかにうまくエースのポテンシャルを引き出しているかが分かる。

 中でも、山口螢の存在感が際立っていた。3分の先制点は山口の縦パスと自らペナルティエリア内に飛び込むランニングから始まり、11分には右サイドタッチライン際から逆サイドへのロングフィードで決定機を演出。相手のパスの流れを読んで先回りする守備能力の高さは相変わらずで、完全なマイボールにはならなかったものの、27分に見せた相手のパスを足に引っ掛けるディフェンスは見事だった。セリエA時代から同様の守備に定評があるシンプリシオを一つ前のポジションで使うことで、C大阪の中盤はとにかく出足が速く鋭い守備を実現できる。

 山口が53分に入れた縦へのクサビは質・タイミングとも絶妙。74分に見せたインターセプトからの豪快なミドルシュートも良い判断だった。攻撃面では縦パスで攻撃のスイッチを入れ、自らのランニングで数的優位を作り、時には後方からのロングフィードでチャンスメークする。一方の守備では急にスピードを上げて周囲に奪いどころを示し、セカンドボールを拾わせて意識を攻撃へと切り替えさせる。山口が切り替えるチーム全体の“スイッチ”が、相手に警戒されているはずの柿谷がスムーズにボールを受ける上で非常に大きな役割を果たしている。

 山口だけではない。東アジアカップで同じく代表入りを果たした扇原貴宏は気の利いたポジショニングで常にバランスを整えているし、トップ下のシンプリシオは元ブラジル代表の肩書きに違わず、すべての能力が高い。右サイドに張るエジノは本来ストライカーだが守備にも献身的で、キープ力を生かして十分なタメを作ることができる。左に張る期待の新鋭、南野拓実はスピードこそ柿谷に劣るが攻撃センスは抜群。酒本憲幸と丸橋祐介の両サイドバックは攻撃的で、迷わず高い位置を取れる。藤本康太と山下達也の両センターバックは人に強く、GKキム・ジンヒョンの守備範囲の広さはリーグ屈指と言っていい。

【次ページ】 カウンターで人数をかけるのがセレッソの強み。

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柿谷曜一朗
セレッソ大阪
扇原貴宏
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