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セリエA選手会によるスト騒動は、
リーグへの良い“スパイス”か? 

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弓削高志

弓削高志Takashi Yuge

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posted2010/10/16 08:00

セリエA選手会によるスト騒動は、リーグへの良い“スパイス”か?<Number Web> photograph by AFLO

現在、セリエAの選手会長を務めるマッシモ・オッド。ACミランで右サイドバックを務める34歳

「われわれセリエA選手会は、第5節でストを決行する」

 エトーのゴール量産やチェゼーナのミラン撃破など、話題に事欠かないセリエA序盤戦だが、実はピッチの外で決して無視することのできない事件が起きていた。

 セリエA選手会による「スト未遂事件」である。

 不振にあえぐローマが王者インテルをうっちゃり、リーグ戦の行方を俄然面白くした9月25日の目玉カードは、実は開催の危機に瀕していた。9月10日、緊急会見を開いた選手会代表オッド(ミラン)による冒頭の言葉は、スポーツ界のみならずイタリア政財界や世論に大きな波紋を呼んだ。

 事件の背後にあったのは、今年の6月末をもって失効した、選手会とリーグ(=クラブ会長たち)が結ぶ労使協定の改定交渉だった。夏の間にリーグ側が出した新協定草案のうち、「成果主義型年俸契約の大幅導入」「負傷時の医師選択制限」ほか改定8項目に選手会は猛反発した。

 特に自由移籍を大幅に制限する項目をめぐっては、夏の移籍市場期間にミランやローマなどで問題が続出していたこともあり、選手会はプレーヤーの権益保護のために、ストという強硬手段をついに打ち出したのだった。

高給のサッカー選手にも「普通の労働者」の権利はある!?

 しかし、会見でオッドが使った「われわれ選手も普通の労働者だ」という言い回しが、“本当の”一般労働者の大きな反感を買った。

 近年の大不況に苦しむイタリアの失業率は8.5%に達している。若者層に限れば4人に1人は職がない。『ガゼッタ・デロ・スポルト』紙のネットアンケートでは9割以上が選手会の主張への反対を唱え、会見後の各紙投書欄には選手への激しい非難が次々に寄せられた。

「選手たちの強欲ぶりには吐き気がする。昨今、失職を怖れてどれだけの女性が出産をあきらめていることか」

「何と世間知らずなのか!」

「高給選手たちがスト要求と聞いて、馬鹿にされている気すらする」

選手会が掲げたストライキの切り札に政財界は不支持を表明。

 ストライキは、実力行使によって雇用側と刺し違える覚悟がなければ使えない、いわば切り札。交通機関などのストライキで悪名高いイタリアだが、根底には労働者階級の闘争の歴史がある。セリエAでは過去に一度だけ、'96年3月にストが実施されている。給与保証基金の創設という、選手会42年の悲願をかけての決行だった。

 混乱を望まないイタリア政財界は、当然ストに対して不支持を表明した。当の選手たちが口を閉ざすなか、唯一ルカレッリ(ナポリ)だけが「サッカーは、薄給でプレーする4部選手たちによっても成り立っている。われわれは彼らのためにもリーグ側と戦う」とコメント。すると「選手会は(サッカー界だけでなく)スポーツ界全体の待遇を考えているのでは。誰もが年俸500万ユーロをもらっているわけではない」と競泳界のスター、フェデリカ・ペレグリーニも一石を投じた。

【次ページ】 世論を敵にしても要求を貫徹した選手会の巧みな交渉術。

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