F1ピットストップBACK NUMBER

ドイツGPでグロージャンが表彰台に。
それでも小松礼雄がうなだれた理由。 

text by

尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

PROFILE

photograph byMasahiro Owari

posted2013/07/12 10:30

ドイツGPでグロージャンが表彰台に。それでも小松礼雄がうなだれた理由。<Number Web> photograph by Masahiro Owari

試合後に記念写真に納まるグロージャン(左から3人目)と小松礼雄(左から2人目)。2人の二人三脚は続く。

王者ベッテルを追い詰めたグロージャンだったが……。

 そんな中、ロータスは金曜日のフリー走行から4番手と5番手のタイムをマーク。特に順調な滑り出しを見せたのが、チームメイトのキミ・ライコネンを抑える走りを披露したロマン・グロージャンだった。

 土曜日の予選ではチームメイトの後塵を拝したグロージャンだったが、レースがスタートするとライコネンはタイヤの劣化に苦しんで早々にピットイン。一方、順調なペースで走り続けたグロージャンは、14周目にピットインすると、ライコネンを逆転することに成功。前を走るのはトップのセバスチャン・ベッテルだけとなった。

 さらにグロージャンはそのベッテルをも上回る力強いレースを展開。その差が2秒を切った22周目には、小松も「ベッテルのタイヤが終わっていたから、絶対に抜ける」と思ったという。

 ところがその矢先、エンジンブローでコース脇の斜面に停まったマルシャのマシンが、事もあろうに転がりはじめてコースを横断。ここでセーフティーカーが導入され、グロージャンがコース上でベッテルを抜くチャンスは一旦、途切れる。

 しかし、まだチャンスはあった。レースが再開されてからも、グロージャンのペースは衰えることなく、テール・トゥ・ノーズで後半へと突入する。

小松礼雄の無念とグロージャンへの拍手。

 ここで先に動いたのが小松だった。タイヤが使用できる限界の周回数まで待って、トップのベッテルよりも先にピットインする。いわゆるアンダーカットと呼ばれる逆転するための常套作戦だ。しかし、ベッテルもすぐさまこれに対応して、翌周ピットイン。逆転はならなかった。

 逆にグロージャンは最後のピットストップを早めに行なったため、その後でピットインして猛追してきたライコネンに迫られてしまう。ここで「グロージャンよりも、勝機はライコネンにある」と判断したチームは、グロージャンにチームオーダーを出して、ライコネンを前に出す決定を下す。その指令をグロージャンに伝えたのが、小松だった。

「いいか、キミ(ライコネン)が後ろからやってきたら、邪魔するな。向こうはタイヤが新しい」

 それを聞いたグロージャンは「無線の調子がおかしくて、わからない」と、さすがに最初は戸惑った対応を見せたものの、次の周には指示に従い、チームメイトに進路を譲った。

 レース後、第4戦バーレーンGP以来のダブル表彰台を獲得したロータスは、ピットレーンで記念撮影会を行なった。記者会見場から遅れてやってきた2人のドライバー。出迎えるチームスタッフの拍手は、ライコネンよりもグロージャンのときのほうが大きかった。

「勝ちたかったけど、これもレース。そして、チームオーダーもレースの戦略の一つ。チームオーダーを無視できるのは、ベッテルのように何度もチャンピオンになっている絶対的なナンバーワンドライバーだけ。ロマン(グロージャン)は、まだチャンピオンにもなっていなければ、1回も勝ったことがない。まずはチームの指示どおり、最後まで走りきること。彼は今日、それをきちんとやった。だから、勝てなかったけれど、よくやったと言いたい。それはチームも理解している」

 そう言った小松は、チーム全体の記念撮影会が終わると、グロージャンの元に駆け寄った。そして、担当メカニック数名を集めて、もう一度、内輪だけで記念撮影を行なった。

BACK 1 2
小松礼雄
ロマン・グロージャン
ロータスF1チーム
セバスチャン・ベッテル
キミ・ライコネン
レッドブル

F1の前後の記事

ページトップ