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サッカーに全てを捧げた
“孤高の男”の真実を描く。
~『中澤佑二 不屈』の裏側~
text by
佐藤岳Gaku Sato
photograph bySports Graphic Number
posted2010/09/21 06:00
『中澤佑二 不屈』 佐藤岳著 文藝春秋 1238円+税
「同級生の飲み会とか全然、誘われないですよ」
以前、中澤佑二が漏らしたひと言に強い興味を掻き立てられた。高校時代はまったくの無名。ブラジル留学、浪人生活を経て、ヴェルディ川崎の練習生に。その経歴を見れば、相当な苦労人であることは察しがつく。だが、高校のサッカー部で孤立していた事実はそのとき初めて知った。人生の暗部をさらりと打ち明ける中澤とはどんな人間なのか。そんな疑問が頭をもたげたときから、いつかその過去を掘り下げてみたいと思うようになった。
数年の後、念願が叶った。本書、『中澤佑二 不屈』である。
そもそもは中澤サイドから単行本の執筆を依頼されたことが始まりで、当初は「Number」誌で連載を行ない、一冊の本にまとめる計画だった。「黙示録」と題された連載は2008年秋にスタート。月に1度のペースでインタビューし、彼の一人語りの文章に落とし込んだ。当然、本も同様のスタイルで綴る予定だったが、本人の意向もあって最終的には連載とはまったく別のスタイルで書き下ろすことになり、いっそのこと中澤が抱える「孤独」にメスを入れてみようと思い立った。
中澤のサッカー人生に通底するキーワードとは?
だが、いざ取材に取りかかるとこれがなかなか難しい。彼の同級生に話を聞こうとしてもそこまで辿り着けないのだ。昔のチームメートとは断絶状態で、中澤に連絡先を聞いても首を横に振るばかり。それでも恩師や後輩に確かめることで朧気ながら当時の様子がつかめてきた。
取材を重ねるに連れて分かったこと。それは「孤独」が彼のサッカー人生に通底するキーワードだということである。高校、ブラジル、練習生、そしてプロ。いずれも中澤は独りぼっちだった。彼の周りには面倒見のいいその性格を慕う者もいるが、ことサッカーに関してはひとりで道を切り開いてきた。
例えば、今年の初春の話である。都内某所で青のジャージーに身を包み、深々とニットキャップをかぶった男が近寄ってきた。こちらが家族連れだったこともあり一瞬身構えたが、直後に目が合って気が付いた。中澤だった。その日は彼が所属する横浜F・マリノスの久方ぶりのオフ。にもかかわらず、中澤は自主トレのためにわざわざ横浜から都内にまで出向き、閑静な公園を一人黙々と走っていた。