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イタリアGPに見たレース哲学の違い。
F1で優先されるのは勝利か速さか?
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2010/09/14 11:55
多くの人間を結束させるためには、どの組織でもそこにフィロソフィが介在する。今年のイタリアGPでは、タイトル争いを演じるトップ3チームが持つ哲学の違いが、イタリア国旗のトリコローレのように鮮やかなコントラストを成して、秋空の下で激しくはためいていた。
逆転タイトルへ、もう後がないフェラーリに脈々と流れる伝統は「ドライバーはチームのために走る」という思想である。
これは“コマンダトーレ”と呼ばれたフェラーリの創始者エンツォ・フェラーリが存命だった時代から受け継がれているフェラーリの哲学で、チームメート同士が優勝を競うことを決して良しとしないというものだ。チャンピオンは一人しかなれないので、もう一人はそのサポート役に徹するというのがフェラーリの伝統。現在レギュレーションで禁止されている「チームオーダー」を昔から行ってきたのがフェラーリなのである。
今年も第11戦ドイツGPでトップを走っていたマッサが2位のアロンソに進路を譲ったとしてチームオーダー疑惑が持ち上がった。イタリアGP直前に開かれた世界モータースポーツ評議会(WMSC)では、ドイツGPで優勝したアロンソのドライバーズポイント剥奪も考えられたが、結局チームオーダー問題は不問に付された。
徹底したチーム至上主義でタイトルをもぎ取るフェラーリ。
その直後に開催されたイタリアGPではドイツGPほど露骨ではなかったものの、フェラーリはアロンソとマッサの間に、ドイツGPよりも明確な序列を設定。
モンツァではタイトル候補のアロンソがレースに向けてマシンのセットアップ作業を行う中、タイトル争いに加わる権利を有していないマッサはモンツァ用に持ち込んだ異なる仕様の空力パーツの比較テストを行っていただけでなく、次戦シンガポールGPに向けてのテストプログラムも消化していた。
この徹底したチーム至上主義こそがフェラーリであり、タイトル獲得が宿命とされているチームの原動力ともなっているのである。
一方、元F1ドライバーだったブルース・マクラーレンが創始者であるマクラーレンは、チーム内の2人のドライバーを常に平等に扱ってきたという歴史がある。
'80年代のアラン・プロスト&アイルトン・セナ、'90年代のミカ・ハッキネン&デビッド・クルサード、そして2000年代のフェルナンド・アロンソ&ルイス・ハミルトンというコンビがその代表である。