F1ピットストップBACK NUMBER
イタリアGPに見たレース哲学の違い。
F1で優先されるのは勝利か速さか?
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byHiroshi Kaneko
posted2010/09/14 11:55
ドライバーを平等に扱い「速さ」を求めるマクラーレン。
たった一つのチャンピオンという座を賭けて戦う男たちを平等にコントロールするのは簡単ではなく、時には軋轢も生じるという苦い経験も少なくなかったが、それでもマクラーレンはイコール・ナンバーワンを貫くチームカラーを保っている。
今回のイタリアGPでも、'09年王者のバトンがFダクトを搭載したミドルローダウンフォース仕様のリアウイングを採用したのに対して、'08年チャンピオンのハミルトンはFダクトを搭載していないローダウンフォース仕様へ金曜日のフリー走行2回目からスイッチ。「どちらの仕様のリアウイングにも一長一短があり、1周走行してもその差はわずかだったので、どちらをレースに使用するか決定するのは簡単ではなかった」(ウィットマーシュ代表)というマクラーレンが採った選択は、2人のドライバーがまったく異なる空力パッケージで走るというものだった。
2台で空力パッケージを変えれば、セットアップも異なる。セットアップが違ってくれば、タイヤの使い方にも差が出て、ひいてはレース戦略にも影響を与えることとなる。つまり、マクラーレンはイタリアGPでチーム内に2つの別々のチームが存在していたこととなる。そして、レースのスタート直後にハミルトン・チームが戦線離脱。バトン単独チームがアロンソ&マッサ連合軍に敗れ去ったのである。
ベッテルが引き金で、レッドブルそのものも不安定に。
マクラーレンと似たアイデンティティを持っているのがレッドブルだ。
ただし、こちらは元々イコール・ナンバーワン体制を敷いているというよりは、本来ナンバーワンであるべきベッテルが不安定で、もう一人のウェバーがチャンピオンに近いためにイコール・ナンバーワン体制を敷かざるを得ない状況となっているように見える。
そのいい例が、レース序盤に一瞬ブレーキに問題を抱えてチームメートのウェバーにオーバーテイクされたベッテルが、リスクの高い52周目までタイヤ交換を引っ張って、ウェバーを再逆転したことだ。レース後のベッテルのフロントタイヤは両輪とも表面のゴムが完全摩耗し、内部のベルト素材が見えるほど酷使されていた。
もしレッドブルが初戴冠のことだけを考えれば、そんなリスクを犯してまでチームメートを抜く必要はなかった。ベッテルがぎりぎりタイトル争いに踏みとどまったことは、チームにとっては決して悪い状況ではないのだが、チーム内の秩序を守るという点では結成6年目の若いチームは今後、再び難しい舵取りを迫られるかもしれない。