野ボール横丁BACK NUMBER
NPBが来季から低反発ボールに統一。
でも……球場サイズはバラバラの謎。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byGetty Images
posted2010/08/26 12:00
飛ぶボールと、飛ばないボール。
そんな違いがあるなど、ひと昔前までは、考えたこともなかった。
ボールはボールだと思っていた。
飛ぶバット、飛ばないバット。それがあることは知っていた。飛ぶ球場、飛ばない球場。それもなんとなくわかりつつあった。
エンゼルスの松井秀喜の専属広報、広岡勲氏がこんな話をしていたことがある。
「忘れもしないよ。ヤンキース1年目のときのキャンプで、打撃練習が終わったあと、松井が『飛ばねえよ……』って」
巨人時代、松井の打撃練習は「練習だけでもお金がとれる」と言われていたものだ。普通のバットよりも重いマスコットバットで、東京ドームの天井と壁の境目にボコボコ当てていた。
ところがヤンキースに入ると、一転、フェンス越えさえままならなくなってしまった。その原因がボールにあったとは、最初のころはまったくわからなかった。今でこそ、練習でもだいぶ飛距離は出るようになったが、日本時代の飛距離には遠く及ばない。
低反発球は従来のボールより約1メートル飛距離が落ちる。
だとしたら、過去、日本にやってきた外国人選手たちは「日本のボールはなんて飛ぶんだろう!」と思っていたことだろう。これまで、そんな話を一度も聞いたことがなかったというのも不思議でならない。
先日NPBは、来季から一軍の試合に限り同一メーカーの飛ばないボール、いわゆる「低反発球」に統一すると発表した。新規格のボールは、従来のボールよりもおよそ1メートル飛距離がダウンするという。
また、縫い目の間隔を広げ、キメの粗い皮を使用するなどし、ボールを持ったときの感触も国際球に近づける。国際大会のたびに、ボールの違いに悩まされる投手が続出したためだ。
投手にとって指先の感覚の違いは死活問題である。特に変化球を駆使する投手にとっては、なおさらだ。
ただ、そういう話を聞くたびに思い出すのが、日本人メジャーリーガーのパイオニア、野茂英雄氏の話だ。野茂氏は、渡米してからしばらく、日本とボールが違うことなどまったく気づかなかったという。このタフさが、時代を切り開く原動力になっていたのだ。
だから、あまり神経過敏になるのも……という不安もなくはない。
WBCのとき、レッドソックスの松坂大輔も話していた。
「いちばん(の国際球対策)は、気にしないこと」
シンプルだが、力がある。このたくましさがなければ、アメリカでは生き残れないのだ。
そういった差違は、気にし始めるときりがない。