メディアウオッチングBACK NUMBER
今季、中継実況を担当する
女子アナは大の野球好き。
~「TOKYO MX」長友美貴子の夢~
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byTomoki Momozono
posted2010/08/28 08:00
長友美貴子(ながともみきこ) 立教大卒。プロ野球実況のほか、スカパ―!Jリーグ中継のリポーターなども務める
今春のことだ。東京の放送局「TOKYO MX」で福岡ソフトバンクホークスの試合を観ているうちに、ふと違和感を覚えた。しばらくしてその正体に気づいた。実況が女性の声だったのだ。
「開幕戦のときは最初、頭が真っ白で。そうなると分かっていたから冒頭のコメントは原稿を用意していました」
当の本人は笑って振り返る。今季、同局の「STRONG! ホークス野球中継」の実況を担当するフリーアナウンサー、長友美貴子である。過去、スポット的に女性が担当するケースはあったが、シーズン通してのレギュラー起用は異例である。「新しい局はチャレンジしなければいけない」との局側の意向と、「野球が大好き」だからこそ刻んできた長友のキャリアから、起用が決まったという。
「母が熱心な巨人ファンだった影響で、子どもの頃から、野球がなければ何を観て育ったのかというくらい観ました。大学では準硬式野球部のマネージャーをしました。観客席とグラウンドの間にネットがありますよね。私はネットの向こう、グラウンドに入りたかった。でも硬式野球部では認められなかったんです」
大学生活のかたわら、テレビ局でスコアをつけるアルバイトなどに携わった。「卒業しても野球に触れられる仕事がしたい」と考えていた長友は、実況するアナウンサーの隣で気づいた。
「喋る仕事に就けばいいんだ。野球にかかわれるし、ネットの向こうにも入れる」
卒業後アナウンサーになり、野球のイベント司会やレポーターなどを積み重ねてたどり着いたのが、実況の仕事だった。
「女なのに選手を呼び捨てにするとは何ごとか」
正式に決定したのは1月末のこと。昨年の試合の映像に実況をつける練習をし、オープン戦が始まると、解説者とともにブースで特訓した。「男の世界」と言われる野球界だったが、現場の人々はすんなり受け入れてくれた。
「大学でマネージャーをしたり、テレビ局のアルバイトで現場の空気が分かっていたのが大きかった。他球団の広報の方も資料を提供してくれたりします」
こうして始まった実況の仕事は試行錯誤の連続。
「細かいミスはたくさんあります。例えば飛球が難しいですね。これはフライだろうと思ったのがスタンドに届いたり、大きいと思ったのが入らなかったり」
スタイルも変わりつつある。当初、局側から「NHKのMLBのような実況を」と注文を受け、あまり喋らないようにした。すると視聴者から「暗い」と感想が寄せられ、言葉数を増やした。
思わぬ批判も少なくはない。
「女なのに選手を呼び捨てにするとは何ごとか」(その後「選手」付けにあらためた)、「飲み屋で女の子と喋っている気分でやっているんじゃないのか」……。