野ボール横丁BACK NUMBER
敵を分析せずに勝ってきた!?
九州学院vs.東海大相模の舞台裏。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHideki Sugiyama
posted2010/08/19 20:00
「知る利」と「知らない利」。どっちがより有利か。
19日の準々決勝、第1試合の九州学院対東海大相模の試合は、そんな戦いでもあった。ずっと疑問に思っていたことがある。
〈敵を知り、己を知らば、百戦危うからず――〉
『孫子の兵法』の中の有名な一節だ。
この訓辞は、野球界では金科玉条のように扱われているところがある。楽天の前監督、野村克也氏が著書等で再三とりあげている影響もあるのだろう。
だが、果たしてこれはスポーツにも当てはまるのだろうか。
スポーツと戦争の決定的な違い。それはスポーツにはルールがあるということだ。
たとえば野球であれば、9人で戦うことが定められている。ボールもバットも規定以外のものは使うことができない。ルールからはみ出すことは有り得ないのだ。
つまり、ルールさえ真に熟知していれば……敵を知らなかったからといってそれが致命傷になるようなことはないのではないかと。
「ミーティングとかもほとんどしません」という九州学院。
試合前、九州学院の監督である坂井宏安は、東海大相模の150キロ右腕、一二三慎太についてこう話していた。
「あれ打て、これ打てということは、一切やってません。それは試合の中でやっていく。相手の試合もまったく見ていない。この前の試合なんて見せたら、怖くなってしまいますからね。ズドーンと打てない球が来たら、もうバンザイするしかない」
一二三は16日の土岐商戦で1安打完封勝利を挙げていた。
坂井が続ける。
「うちはミーティングとかもほとんどしませんから。もっと細かくやった方が強くなるのかもしれませんけど、あんまりそっちに走って欲しくないんですよね。だったら、普段の練習は何なのかなという気もしてきますし」
それらの発言に裏に、含みはまったく感じられなかった。
実際、ある選手に「一二三の情報はどれぐらい持ってるの?」と突然尋ねてみると、こう話していた。
「真っ直ぐと、あとはスライダーかカーブ、曲がる球があるぐらいです」
対照的に東海大相模は用意周到だった。