スポーツ・インサイドアウトBACK NUMBER
ダルビッシュの無念と今後の飛躍。
~完全試合に最も近付いた男たち~
text by
芝山幹郎Mikio Shibayama
photograph byGetty Images
posted2013/04/06 08:02
最後の最後に股間を抜ける中前打を浴び、大記録達成はお預けとなった。
「28アウトの完全試合」を達成したガララーガの寛大さ。
なかでもスティーブは「挫折王」だ。
'85年に1度、'88年には2度も9回までノーヒッター(さすがに完全試合ではなかった)をつづけ(1度などは9回2死ツーストライクまで打者を追い込んでいた)、結局'90年9月2日に、最初で最後のノーヒッターを達成しているのだ。こうなると、ほとんど自虐的な執念さえ感じられてしまうではないか。
そういえば、ガララーガの「奪われた完全試合」も記憶に新しい。
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このときは、9回2死から、最後(になるはず)の打者ジェイソン・ドナルドが一塁ゴロを放った。一塁手のミゲル・カブレラは、ベースカバーに入ったガララーガにトスを送った。快挙達成、とだれもが思った瞬間、一塁塁審のジム・ジョイスは両手を横に広げてセーフを宣告した。記録は内野安打。完全試合の夢がついえたばかりか、ノーヒッターの快挙もそこで断ち切られてしまったのだ。
それでも、ガララーガはめげなかった。次打者を難なく打ち取り、のちに「28アウトの完全試合」と呼ばれる完封勝利を収めるのだ。
塁審のジョイスも、試合後のビデオで、自身の過ちをすぐさま認めた。翌日、彼は涙ながらにガララーガに謝罪し、ガララーガもその謝罪を受け入れた。
そのときの科白が「ノーバディ・イズ・パーフェクト」。
映画『お熱いのがお好き』のラストシーンに使われた有名な科白だったことはいうまでもない。
やはりダルビッシュはサイ・ヤング賞の有力候補だ。
とまあそんなわけで、ダルビッシュ有は、大リーグ史上11人目の「9回2死まで完全試合を遂行した」投手のリストに名を連ねることとなった。悔しいことは悔しいが、逆にいうなら、今季のダルビッシュには相当な期待を寄せることができそうだ。
こんな「セミ快挙」を実現してから申し上げると、ジャンケンの後出しのように聞こえるかもしれないが、私は今季の彼をア・リーグのサイ・ヤング賞の有力候補だと思っている。