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済美・安楽智大でセンバツが沸騰!
最速152キロの2年生右腕を徹底検証。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byKyodo News
posted2013/04/02 06:00
準々決勝の県岐阜商戦で、9回に151キロを記録した安楽。今大会3試合目の登板で投球数は529球に上ったが、「(この大会を)1人で投げ抜きたい」と強気なコメントをしている。
難敵との延長戦も制し、“超高校級”投手として本物に!
強打の広陵打線相手に8回まで9三振を奪い、与えたヒットは2本だけ。6回には自らの二塁打などで3点奪って、完封勝利は目前に迫っていた。しかし、9回に3連打で2点、死球を挟んで犠牲フライで同点とされ、試合は延長戦に突入した。
勢いに乗る広陵は10回に無死満塁、11回に2死二塁、13回に2死三塁と安楽を攻め立てる。こういう長丁場の展開では“超高校級”のいない試合巧者がワンマンチームを最後にうっちゃるのがよくあるパターンだが、安楽は踏み止まる。
延長戦に入れば最大の武器はストレートの速さより、低めへの伸びとコントロールである。この2つが安楽には備わっていた。
この試合、最終的に安楽が奪った三振は13個になっていた。ストレートで奪ったのが10個、そのうち7個は空振り。速さと伸びが備わったストレートに広陵打線が翻弄された様が目に浮かぶようである。結局は13回裏に相手一塁手のまずい守り(記録は安打)があって済美がサヨナラ勝ち。ちなみに球数は、松坂大輔がいた'98年夏以降では3番目に多い232球とスポーツ紙は報じていた。
152キロの直球だけでなく、緩急を駆使した老獪な投球も。
2試合目は九州勢の中で唯一残った済々黌が相手。中3日では232球の投げ疲れは取れなかったのか最初からスピードは抑えめで、その安楽に済々黌打線はストレート狙いで果敢に攻めてきた。
コンパクトなスイングでストレートに的を絞り、センターから逆方向を狙い打つ済々黌打線は安楽を追い詰めていた。1回は一、二塁、3回は満塁、4回は一、二塁、5回は一、二塁といずれも1死からチャンスを作り、このうち得点になったのは5回の1点だけだが、拙攻ではない。安楽がよく凌いだと言うべきだろう。
スピードの限界に挑戦するような粗っぽさがあった広陵戦とは別人だった。スピードを抑え、外角低めを中心にしながらコーナーワークに心を砕き、さらにここにスライダーを基調とした変化球を挟んで、緩急にも意識を集中した。衝撃の152キロからたった1試合で高度な技巧を交えたピッチングができていることに驚きを禁じ得ない。
7回にはセンター前へ抜けるような打球に対して足を出して勢いを止め、ショートゴロにしている。バッティング面では広陵戦と同様に、1対1で迎えた8回表、技巧派左腕の大竹耕太郎が投じた初球ストレートをおっつけて左中間を破る三塁打を放ち、2人の走者を迎え入れている。
「野球は1人でもできる」という言葉を残したのは延長11回裏、自らのサヨナラホームランでノーヒットノーランを達成した江夏豊('73年当時阪神)だが、安楽にも江夏に通じる「1人になっても野球をやる」という一投一打に懸ける執念の強さを感じる。