詳説日本野球研究BACK NUMBER
済美・安楽智大でセンバツが沸騰!
最速152キロの2年生右腕を徹底検証。
text by
小関順二Junji Koseki
photograph byKyodo News
posted2013/04/02 06:00
準々決勝の県岐阜商戦で、9回に151キロを記録した安楽。今大会3試合目の登板で投球数は529球に上ったが、「(この大会を)1人で投げ抜きたい」と強気なコメントをしている。
達成されれば史上初となる大阪桐蔭の甲子園3連覇が大きな話題となるはずだった選抜大会だが、大阪桐蔭は3回戦で県岐阜商に敗れ偉業は達成できなかった。代わりに話題を独占したのは、ストレートが最速152キロを計測した済美の2年生エース、安楽智大(右投左打・187cm/85kg)だった。
初戦の広陵戦で延長13回、232球を投げ3失点完投勝利、3回戦は済々黌を7安打、1失点、準々決勝の県岐阜商は9安打されながら3失点に抑え、チームの4強進出の原動力になった安楽。準々決勝までの足跡を追いながら、その凄さの秘密に迫ってみたい。
「今大会に本格派はいない……」と思った矢先の怪物の出現。
個人的な話で恐縮だが、センバツ出場校がすべて出揃った3月28日の翌日、日刊スポーツに「小関順二氏の初戦総括」というコラムを出した。文章とともに一覧表で「注目選手」も35人紹介したのだが、投手は7人しか選出できなかった。このコラムはこれまで10年くらい続けているが、例年だと全体で40人くらい選出し、そのうち投手は15~20人くらいになる。いかにスカウトが目をつけるような本格派が今大会少ないかがお分かりいただけると思う。
知り合いのスカウトは大会4日目の3月25日、「まだ前の席で見ていないんですよ」と言った。“前の席”とは主催者から用意されているスカウト席のことで、観客席の前方に設置されている。ドラフトで指名したい投手が登板する時はスカウト席で見て、そうでないときは全体を俯瞰できる後方の一般席で見る、というのがスカウトの定番観戦スタイルのようだ。
本格派がいないと言われ続けている今大会にあってただ1人、別世界にいるのが安楽だ。広陵戦で初めて安楽を見て、それまでの本格派の欠乏感などいっぺんに吹き飛んでしまった。
投球フォームは一見、粗っぽく見える。下半身のバネを利かせた振幅の大きさと、腕の振りが体から若干離れているのが粗っぽく見える理由だが、よく見ると体の早い開きがなく、リリースでボールを押さえ込めている。これはプロの投手が“ボールを潰す”と表現する技術で、誰もができる技ではない。
最もわかりやすい長所は何と言ってもボールの速さだ。
広陵戦で計測したストレートの最速は152キロ。センバツで2年生が150キロを超えたことはないのでこれは史上初。夏の選手権まで広げても最速は'05年・田中将大(駒大苫小牧→楽天)の150キロなので「2年生では甲子園大会史上最速」の冠をつけていい。