フィギュアスケート、氷上の華BACK NUMBER
17歳の羽生結弦の偉業をどう考える?
スケートアメリカで日本が表彰台独占。
text by
田村明子Akiko Tamura
photograph byREUTERS/AFLO
posted2012/10/24 10:32
スケートアメリカの表彰台にて。左から羽生結弦、小塚崇彦、町田樹。まだ若き3選手に、惜しみない賞賛の拍手が降り注いだ。
世界銅メダリストとなり、追う立場から追われる立場へ。
羽生自身、これまでSPで失敗してフリーで追い上げるというパターンが多かった。2012年3月のニース世界選手権でも、SP7位からフリーで2位となり、総合3位で初の銅メダルを手にした。10月初頭のフィンランディア杯でも、SP2位からフリーで逆転優勝している。SPで史上最高点を出し1位の立場からフリーに挑むというのは、彼にとって未知の体験だった。
「追いかける立場から、追われる立場になったということではないですか?」。そう言うと、「そうかもしれないですね」と言って頷いた。
「世界銅メダリストというプレッシャーも、こういうことなのかと思います」
だが今回すんなりと優勝しなかったことは、長い目で見ると羽生の競技人生に大きなプラスの体験となっただろう。こうした一つ一つの学びの経験が、選手にとってかけがえのない宝となって積み重なっていくのである。
スケートに集中し、着実に勝利をものにした小塚。
才能の塊である若手の羽生に注目が集まった中、自分のペースを保って着実な演技を見せ、4年ぶりのスケートアメリカタイトルを手にしたのは、小塚崇彦だった。
SPで1回、フリーで2回の4回転を組み込み、2回がほぼ完璧に成功。1回はわずかに回転不足となったが、大会を通して大きなミスはフリー後半のサルコウで手をついたことだけ。王道をいくクラシック音楽を使ったプログラムで、端正な滑りをじっくり見せた。
「不調だった昨シーズンに比べて、何が変わったのか」と聞かれると、「今シーズンはスケートにだけ集中していること」と答えた。
昨シーズンは大学院の研究や論文にも、スケートと同じくらいの力を注いでいた。だがGPファイナルにも進出できず、世界選手権11位に終わった。
「日本男子3人中2人は表彰台に上がり、自分はああいう結果になって、あせる気持ちがなかったといえば嘘になります」
振付師のマリナ・ズエヴァに「あれもこれも頑張りすぎているのでは」と言われたアドバイスもあって、今はスケートを優先させる決意をした。
「世界選手権のような大会でメダルを競っていくことと、大学院の両方を高いレベルでやっていくことは無理。ソチ五輪までは、スケートに集中します」そう語る彼の眼には、昨年とは違う力強さが感じられた。