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敏腕サッカー代理人が説く、
ビジネスとの向き合い方。
~『世界基準の交渉術』を読む~
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph bySports Graphic Number
posted2012/09/12 06:00
『世界基準の交渉術 一流サッカー代理人が明かす 「0か100か」のビジネスルール』 ロベルト佃著 ワニブックス 1300円+税
突然のオファーが舞い込んできたのは、'11年1月30日のことだった。
ヨーロッパの移籍締結期限の前日、サッカーの代理人、ロベルト佃の携帯電話が鳴った。電話の主はイタリアの名門クラブ、インテルのGMマルコ・ブランカ。そこで彼は思いがけない言葉を聞く。
「期限ギリギリのタイミングだが、ぜひナガトモが欲しい」
その後、レオナルド監督からも連絡があり、熱意を感じ取ったロベルト佃は、長友佑都の意思を確認する。しかし、このときはクラブ名を明かさず、ビッグクラブとだけ告げた。交渉の先行きが不透明な場合、クラブ名は伝えないようにしているからだ。そうしたスタンスを理解したうえで、長友は「チャンスがあるなら、挑戦したいです」と力強く答えた。
期限3分前に決まった長友インテル移籍の、切迫した状況を描写。
ここから事態は一気に進展していく。翌31日、インテルのGMから、話がまとまりそうだという連絡が来た。この段になって初めてクラブ名を明かし、練習前の長友に急いでミラノに向かうよう指示する。そして、車で移動中の長友に改めて電話をかけて、こう告げるのだ。
「佑都、この交渉がまとまらなかったら、それは私の責任だ。でもそうなることもあり得るから」と――。
登録書類が受理されたのは、期限の3分前。いかに切迫していたかが本書『世界基準の交渉術』には記されている。
しかしながら、ロベルト佃が本書を世に送り出したのは、こうした移籍の舞台裏を明るみに出すためではない(それについては前作『サッカー代理人』に詳しい)。この本は、代理人の仕事のあり方や交渉の一部を紹介することで、ビジネスにおける商談やプレゼンなどの場で活用してもらうことに主眼を置いている。