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またしても勃発した味スタの芝問題。
J1のスタジアムとしてこれで良いの?
text by
細江克弥Katsuya Hosoe
photograph byAFLO
posted2012/09/01 08:01
試合前には凱旋した五輪代表組のセレモニーが行なわれたが、足元はデコボコ。このピッチでは、グラウンダーのパスで組み立てるサッカーは不可能だろう。
8割を占める夏芝が育成不良……緑を維持する難しさ。
そこで思い出したのが、あるスタジアムで芝を管理する職人さんに以前聞いた話だった。「冬芝から夏芝への移行の難しさ」について彼は次のように解説してくれたのだが、その内容が非常に興味深かったことを今でもよく覚えている。
「仕組みとしては、冬芝と夏芝を混生させるんです。夏の時期になると、冬芝が自然に衰退して、夏芝が元気になる。それが冬芝から夏芝へ“切り替える”ということ。ただ、急に暑くなったりすると、夏芝が育つ前に冬芝が枯れてしまうことがあるんですよ」
従って、気温の変化や雨量を見極め、冬芝から夏芝への移行期間を設定するのは非常に難しいという。もちろん、逆に夏芝から冬芝へ移行する場合については、夏芝が衰退する頃に合わせて10月には冬芝の種をまく。つまり、一方を育て、もう一方を衰退させるという繊細な作業を繰り返すことによって、彼らは年中変わらない「緑」を維持しようと努めているのである。
彼の話によると、例えば、7月の時点では夏芝が8割、冬芝が2割くらいの割合でピッチを構成しているケースが多いそうだ。つまり、仮にこの割合がその他のスタジアムにも共通すると考えると、夏芝の育成に失敗してしまった味の素スタジアムのピッチは、その8割が正常なコンディションではないということになる。ならば、テレビ画面に映るピッチが黒く見えても仕方がない。
グラウンドの状態はゲームの行方を大きく左右する。
近年は特に、「試合前に水を撒いた」という情報を耳にすることが多い。その理由は、もちろんそれがゲームの結果を左右しかねない非常に重要な要素であるからに他ならない。
バルセロナのようにパスサッカーをスタイルとするチームは、ボールがよく走るように水を撒く。逆に、バルセロナをホームに迎えるチームは、相手のパスを走らせないように水を撒かない。
同じようにパスサッカーを武器とするアーセナルは、本拠地エミレーツ・スタジアムの芝のコンディションを維持するため人工紫外線を当てている。一方、ピッチコンディションの悪化に長年悩まされてきたミランとインテルは、本拠地であるジュゼッペ・メアッツァの芝を今シーズンから天然芝と人工芝の2種類で構成する方法を採用。環境的な問題など事情は様々だが、近年は人工芝への切り替えを行っているスタジアムも少なくない。
また、これが代表レベルになると、技術的に不利なホームチームが劣悪なピッチコンディションのスタジアムを会場に選び、“地の利”を得ようとする動きもある。用意される練習用のスタジアムもしかり、アジアの舞台で日本が苦戦を強いられてきた理由はそんなところにもあった。